26話 裏の裏
「こんな状況というのに随分と落ち着いていますね」
「焦ったところで何も変わらんからな。まぁ、年の功というやつだ」
現在リロイラからアルスター領へとエセルコットの馬車に乗って向かっている。
しかも、戦争が始まるまで時間もない。
正規の手順を踏んでいては間に合わないので軍を引き連れている。
普通なら侵攻とみなされ攻撃されてもおかしくないが、この非常事態では仕方ないかもしれない。
それよりも、この短期間で戦力を集めたエセルコットの手腕がすごい。
リロイラは商国で軍隊というものがあってもかなりの小規模。
ついてきている半数以上がエセルコットが集めた傭兵だ。
しかも、多くの傭兵がお金だけでなくエセルコットへの信頼で集まっている。
「俺はハルク・ミシュレン、いきなり軍隊を連れてきてどういうつもりだ。返答によっては迎撃するぞ」
「ロージア・アルスター辺境伯はいらっしゃるかな、急な要件があってきた」
「おいっ、舐めてるのか」
「迎撃すると言ったがそんな余裕があるのか?」
エセルコットの言う通り、余裕があればすでに戦闘が起きていておかしくない。
そうなっていないのはアルスター領が帝国への防衛のため兵をそちらに集めているからだ。
それを読み切って軍を連れてきている。
「くっ、リロイラには後で正式に抗議をするからな、覚えておけよ」
「もう一度言うぞ、辺境伯と話がしたい」
「ロージア様は不在だ。とっとと帰れ」
「まぁ待て。我々はアルスター領を助けにきたのだ、辺境伯代理はいないのか」
「俺が預かっている。話すことなんて何もない」
ハルクは頑なに断っている。
「ハルク・ミシュレン辺境伯代理、私はオリヴィア・アセルセアです。エセルコットさんの話を聞いてもらってもいいかしら」
リロイラではあまり力にならなかった王族の名も王国内だと莫大な権力を発揮する。
「悪いがそれが本当かどうかを確認する術が俺にはない。王宮に確認の連絡をするからそれで確認が終わってからまた来てくれるか」
「帝国が目の前に迫っていてそんなことをしている暇はないはずよ!!」
「それ以上、グダグダ言うなら力尽くで追い返すぞ」
ハルクは護衛に剣を抜かせた。
緊張が走る。
「ハルク、お前がいつ辺境伯代理になったのかな」
「スイフトさん……リロイラの奴らが軍を連れてきて、その上王家の名まで騙っている。今、片付けますから」
「王家の名を騙るか……この方は紛れもない王家のお方、ワシが保証する」
「ガーデイフさんっ!?」
ガーデイフさんがゆっくりと歩き始める。
たしかにガーデイフさんはアルスター家で料理人をしていて、屋敷の人と面識もある。
交渉させてくれるかもしれない。
「料理人のジジイが何様のつもりだ!?」
「ハルク、口を慎め」
「っ……」
怒号を飛ばすハルクだったが、スイフトの静かではあるが相当な圧を感じる一言で押し黙る。
「こちらのお方は先代辺境伯、ガーデイフ・アルスター様だ」
「バカなっ、聞いたことがない」
「帝国のスパイをしていたお前の耳には入るはずもない」
「そんなっ、知っていたのか!?」
「こそこそと工作をされるくらいならと手元に置いて監視していただけだ。連れて行け」
「くそがっ、くそが、くそがぁぁぁぁぁぁ」
「ご老公、現在ロージア様は例の場所へ行っております。ご指示をいただければ従います」
「ではこの方たちと話をしようか」
「畏まりました」
またこのパターンか……
どうして権力者は身分を隠して潜入したがるのか。
まぁ、自分も身分を隠したい気持ちは分かってしまうが……
とにかくこれで帝国への対応に尽力できそうだ。
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