第43話
「奥に商談室がございますので、そちらへ参りましょう」
軽くカールした髪を靡かせイザベラがジョン達を奥に並ぶ個室の一つへと案内する。
ジョンは飛翔、空間振動、歌唱、認識阻害、幻術と幾つものスキルが仄かに発動するかしないか微妙で曖昧な領域を保ち、後についていく。
奥の個室はテーブルと椅子があるだけの質素な空間に思えたが、魔法対策を施された部屋の様だ。
「イザベラさん、こんにちは。ジョンです。ミーティスお願い、お話を聞いて」
いつもより明確に言葉を発するジョンを凝視するミーティスを尻目に会話は継続する。
種明かしをすれば、俺は会話力を魔法で補助したのだ。
イザベラさんが何枚かの紙を取り出し、特許申請について詳しく話し始めた。
折り畳み式赤ちゃん乳母車なるものを作成した発明家だと言うのは都市カーライルの奥様方の間では公然の秘密となってしまっていたのだ。まぁ、口止めしていなかったのも悪かったし、シャーロットちゃんを乗せたマイアの娘さんが買い物に行くぐらい想像出来ただろうという話。ただ、折り畳みというところはシャーロットのお爺ちゃんがぐいっと強引にやってしまっただけなのだが…
常時発動している魔法として形になっていない魔法を操りながら、目を閉じて瞼の裏に浮かぶ十二のゴーレムスフィアの送ってくる映像を確認する。一つはミーティスの手のひらにも埋め込まれているが、手のひらを閉じているので部屋の様子まではわからない。南西の森で三つが編隊を組んでゾンビ狩りをしている。
また、ジョンの発動している待機状態の諸々の魔法が商業ギルドの備える魔法感知には引っ掛からないのではないかと分かっただけでも収穫だろうか。商談室では魅了や幻惑等の魔法はダメでも話術や詐術は許容される。
空気が動いたので目を開けるとイザベラさんが三枚の書類をこちら向きでテーブルの上へ差し出している。
折り畳み式赤ちゃん乳母車という名称も郷に入れば郷に従えと言うし受け入れるのが妥当だろう。余計なことをすると書類は書き直しの上、さらに時間がかかるのは目に見えている。
そして、ジョン・カーライルが作ったんだと街の噂になっても、同姓同名の父が去年産まれた俺の為に作ってあげてたんだろうと皆が勝手に誤解したせいでそれほど大きな話題にはなっていない。
マイアさんによって商業ギルドには何だったっけ、赤ちゃん用移動乳母車、いやなんかもう名前はどうでも良い。俺の心のなかではただのベビーカーの特許出願は無事にイザベラさんが手続きを行ってくれた。
もちろん、ミーティスにも感謝だ。
イザベラさんにミーティスと共に礼を言い商業ギルドを後にする。
この時は商業ギルドへまたすぐに来る事になるとは思っていなかったのだが、マイアの旦那さんが家業の革製品で日除けの幌を取り付ける等改良した製品にもジョン・カーライルの名が開発者として連名で記される事になる。
このベビーカーシリーズは様々な改良が加えられ世の母親達に受け入れられるのだった。
異世界転生からの俺TUEEEはいつから始まるのでしょうか? かり 別府明 @junyabeppu
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