第4話 美織、探索する(5)
[5]
夕方にも関わらず、病院の外来ロビーは、診察の順番待ちの人がまだ大勢いました。
朋美は、佐久間君を待つかたわら、大原君を、五島君のお母さんの所へ行かせました。
「何度も大勢で行くと、心配されるやろうからな。さりげなく、五島が戻って来なかったか聞いて来るんや」
というと、大原君は「はい」と答えて廊下を歩いて行きました。
朋美は、改めて美織に向かい、
「この子らの同級生がトラブルに巻き込まれてるらしいんや。頼むさかい、見つけたって!」
と、手を合わせて頼みましたが、
「そんなん、無理です。顔も知らん人」
と、美織は不満げです。
「顔なら、分かるで。これや」
朋美は、ハンカチに包んでいた五島君の生徒手帳を取り出して、ページを広げて美織に見せました。
「写真やないですかあ‥‥」
美織は、ますます不満げです。3Dデータでないと無理だと言わんばかりです。
ですが、しばらく見ていると、
「分かりました」
「え? ホンマ?」
美織は、「うむ」と厳(おごそ)かにうなずきました。
「この方は、本町通り五条下ル本町3丁目にいらはります」
「え! あんた、マジすごいやん!!」
と驚く朋美の袖を、錦小路君がつんつん引いて来ました。
「鈴野先輩、それ、違います。それ、今行って来たアパートの住所です」
「えっ!?」
と、生徒手帳の向きを返して見ると、なるほど、写真の下にその住所が書いてあります。
「美織、違うって!」
「違うのですか?」
「いや、違わへんけど、今、どこにおるんか知りたいんや」
「そんなん、そちらの住所で待ってれば帰って来るやないですか!」
「頼むよ、美織ぃ! あれ!?」
通路を大原君が戻って来ます。ところが、かたわらに、五島君のお母さんも一緒にいるのでした。
「カケルは、家には戻っていませんでしたか?」
「はい‥‥」
朋美は、ばつの悪い気持ちで答えました。
「お仕事中に何度も済みません」
「それはええんやけど‥‥」
と言って、かたわらの、等身大の日本人形の様な美織を不思議そうに見ています。
「あ! これは、祖母のところの介護ロボットで、美織いいます」
と説明すると、美織は、丁寧に頭を下げました。
「うちの朋美が、悪さばっかしまして」
朋美は飛び上がりそうになりました。
「あんた! そのおばあさまの口真似、やめえ!」
美織は、ちらっと朋美を見ると、「つん!」とそっぽを向きます。
五島君のお母さんは、顔に笑みを浮かべて、でも、すぐに案じ顔に戻ると、
「鈴野さん。カケルに何かありましたか?」
「い、いえ!」
朋美は、あわてて両手を振りました。
「ただ、前から会って話ししよう言うてたんが、やっと叶いそうやったもんで」
五島君のお母さんは、納得顔になりました。
「カケルが、陸上やっとらんのは気づいとったんですけど。京都に来てからは、わたしが忙しかったり、あの子ももう中学生やし、構い過ぎてもと思て‥‥」
と、思案顔で伏せた顔を再び上げて、
「鈴野さん、カケルと仲良うしてやって下さい」
と、朋美にお辞儀をします。
「もちろんです!」
朋美はあわてて答えました。
「本当に、お仕事中に済みませんでした」
朋美たちは、外来待合ロビーからは退散することにしました。
通路の角を曲がって、もう見えないだろうと振り返ると、五島君のお母さんは、深くお辞儀をして、廊下を戻って行きます。
「‥‥こら、ばればれやな」
朋美はため息をつきました。
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