第1話 美織(みおり)誕生(7)
[7]
夜が明けると、今日も良いお天気でした。
玄関のドアを開けると、東山はほのかに霞んでいましたが、空は澄み亘っていました。
朝、目を覚ました朋美は、教えられた通りにタブレットを操作して、美織を再起動しました。
美織は、イニシャルチェックの3ステップ目、バランサーの調整で、やっぱり手間取ります。
「悦子お姉さんも苦労しとるなぁ。あ! あんたもか?」
前は何とも思わなかった事が、なぜか意味のある事に思えます。朋美に何かを語りかけて来る様なのでした。
イニシャルチェックが終わると、美織は、先日と同じに、ぱちっとまぶたを開きました。キューン、キューンと小さな音をたてて、目の中でレンズが動いています。
「おはよう、美織。今、7時42分やで」
美織は、さらに、キューンとレンズを調整して、そうして、朋美に顔を向けました。
「おはようございます、朋美さん。お加減はいかがですか? お腹がすいてはるでしょう?」
「おばあさまのおじややろう? 後で自分で温めて食べるよってに、あんたは、早ようお帰り。バッテリーが上がるで」
タブレットを差し出すと、美織は、それを鏡面モードにして覗いて、髪のほつれを直しました。ですが、途中で、タブレットを手にしたまま、朋美をじっと見つめて来ました。
朋美は、美織の体に両腕を回して、きゅっと抱き締めました。
「美織、好きや!」
美織からは、ほのかに甘い香りがしました。
朋美が見たところ、美織のバッテリーは、スリープモードで3時間10分、アクションモードでも50分はもつ様でした。ゆっくり歩いても、無事に東山まで帰りつくでしょう。
それでも、朋美は、マンションの玄関口まで見送って尋ねました。
「ほんまに一人で大丈夫なん? おばあさまのとこまで送って行こうか?」
美織は、目を細めました。
「大丈夫です。朋美さんこそ、今日は一日安静にして下さい」
そう言うと、美織は、小腰を曲げて頭を下げ、朝の京都の街へ歩いて行きました。
(第1話 終り)
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