第12話サイコパスと人体実験
今日のカインはいつもより興奮していた。なぜなら、先生たちは午後から職員会議があるため、午前授業だけなのだ。午後からはカインがかねてより見学したかったシークリー魔法学院(裏)研究所にいけるのだ。国立魔法学院は大きな都市に点在してる。
そして、その横には必ず、研究所が隣接しているのだ。だが、王都にあるシークリー魔法学院には通常の研究所とはべつに(裏)も存在する。
シークリー魔法学院(裏)研究所とはいわゆる非合法な実験、研究をしている。研究者がみな全うかというとそうでもない。なかにはマッドサイエンティストと呼ばれるやばいやつらもいるわけで、その人たちをまとめて管理しようという国の政策なのだ。
もちろん、一般の人にはその存在をほとんど知られていない。
カインは授業を終えてシルフィーのもとへと向かう。研究所が学院の横に併設されているといっても皇太子に何かあればまずいのだ。研究所と(裏)研究所は建物自体も独立していて、やや(裏)のほうが重厚な作りになっている。
カインはうきうき顔で研究所の門をたたく。入り口には案内役らしき女が一人立っていた。
「はじめまして、皇太子殿下。ようこそいらっしゃいました。」
「楽しみにしていたんだ!はやく中を案内してくれ」
「殿下!慌ててはだめですよ!」
カインは研究所を目の前にして、いても立ってもいられない。それをシルフィーがなだめるが効果はいまひとつなさそうだ。案内人はサリーナというエルフで下級貴族の子女である。皇太子の案内はふつうの研究者には荷が重く、比較的まともなものが選ばれたのだろう。
三人は研究室に足を進める。内部はあまり騒々しさはなく、白衣をきた研究者たちの足音だけがひびく。
サリーナは二人をとくに頑丈そうな部屋へと案内する。するとそこからは、けたましい叫び声が耳にはいってくる。目のまえに広がる光景をみて二人はぎょっとした。
おおよそ人間ではないなにかが奇声を発しているのだ。それをよくみると、足は人間のものだが右腕、左腕はカマキリのように緑色で鎌状になっている。全身をくさりに繋がれている。ぎしぎしと音をたて今にも襲ってきそうな迫力がある。
カインが驚いたのは一瞬で顔はもとに戻るどころか笑みすら浮かべている。一方のシルフィーは開いた口がふさがらず、ときおり口をぱくぱくさせている。サリーナはこちらをいたずらっぽくみて楽しんでいるようだ。
「この化けものはなんだ⁉ 素晴らしいじゃないか!」
「殿下!喜んでる場合ではありません!なんとおぞましい……。」
「殿下、さすがです。このキメラの美しさをおわかり頂けたのですねぇ」
サリーナはキメラをみてうっとりした顔を浮かべている。まるでわが子を愛しむように。そんな異常な態度をよこめにシルフィーはしかめっ面をしている。(裏)研究所の異常さを思いしらされたのだろう。
「殿下、実はこれでもまだ未完成なのです。われわれの目標は人間と魔物のわりあいを五十パーセントづつにすることなのです。」
「この人間は奴隷なのか?」
「いえいえ、ここに連れてこられる者たちはみな殺人犯や放火魔。奴隷にもなれない犯罪者なのです」
帝国の情勢はひかくてき安定しているが、犯罪が起きないということはない。そのなかでも、重大な罪を犯した人は奴隷にもなれずここ(裏)研究所にて実験体としてつかわれるのだ。
もちろん、すべての人が成功してキメラになれるわけではない。実験に失敗はつきものである。成功したからといってキメラとして生きるというのも皮肉ではあるが……。
このキメラたちはマッドサイエンティストたちの趣味で研究している部分もある。だが、ここシルヴォード帝国は長年隣国と小競り合いをしている。つまり、いつ大きな戦争になってもおかしくないのだ。そこでキメラの開発をおこない近いうちに戦場に活用しようとたくらんでいるのだ。
カインはキメラの開発をしって満足し次のところへ案内しろと急かす。彼はいつだってわがままで自分勝手だ。三人はキメラ研究室をでてろうかをまっすくぐ進む。するといたってふつうの扉の前にたどりついた。なかに入るともくくもくと煙がたっていて、なにやら甘い香りがする。
「サリーナ、ここではなんの研究をしている?」
「はい、ここでは主に薬品の開発をしています。」
「具体的にはどんなのだ?」
「こちらの青い液体は魔物がいやがる香りをはっする一方で赤い液体は魔物が好んでちかづくという特性をもっています。」
大きな鍋にさまざまな薬草らしきものを放り込んでいる。赤い液体がはいっている鍋から甘い香りがするようだ。魔物が好んで近づくとはずいぶん恐ろしい効能である。しかし、カインは赤い液体をみてニヤッと笑った。じつは、一週間後に魔法学院と騎士学園の合同合宿あるのだ。生徒たちは森のなかで二泊三日のサバイバルを経験しなくてはならない。それは厳しすぎるとおもわれるが、帝国は力こそがものいう国である。
そこでカインはこ思いついた。いや、思いついてしまった。この赤い液体(香り草)を生徒にふりまいたら一体どうなるのだろうと。思いたったが吉日、すぐにサリーナに質問するのだった。
「この香り草はどれくらいある?」
「はい、まだ研究とちゅうでして。びん二、三個ほどならございます。」
「わかった、それなら買ってやろう。ついでに実験もしてやる」
「本当ですか⁉ ありがとうございます。」
「殿下!このような危ないものを買うとはなにごとですか!」
かいんとサリーナはひじょうに満足した顔だが、シルフィーの顔はすぐれない。それもそのはず、魔物を自分に呼びよせる薬など皇太子がもっていていいものではないからだ。しかし、カインが買うといってしまったため、仕方なく金貨五枚をさしだす。もちろん、ふつうに買うより安い。皇太子からお金をとるのはばかられそうだが、上のものが下のものに対価を払うのは当然のことなのだ。
カインはあまりに嬉しくなり、研究所の訪問をやめ王宮に帰ることにした。一方のシルフィーはまた陛下に隠しごとが増えてしまい青い顔をしている。バレてしまったら首が飛びかねない。もちろん、言葉のとおりの意味で、である。
サイコパスな僕が征く異世界冒険記 〜皇太子に生まれ変わっても殺人衝動が収まりません〜 水底 りゅう @collegestudent3
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