第11話サイコパスと冒険者ギルド

 冒険者ギルドの内装はまさに剛健質実、無駄な飾り気が一切なく木構造ならではのさわやかな木の香りが二人の鼻をくすぐる。



ギルドの建物は三階建てで、一階はいわゆる低ランク冒険者のための受付と素材の買い取り、隣には巨大な倉庫も隣接している。二階は高ランク向けの受付で三回は事務室とギルドマスターの部屋となっている。



カインとシルフィーは特に注目を集めることもなく受付嬢のもとに歩を進める。

 


「いらっしゃいませ!ご用件は何でしょうか?」

「僕たち二人の冒険者登録を頼むよ」

「承知しました。少々お待ちください。」



カインの身長は以前より伸びて百五十センチに届くか届かないかである。それでも明らかに見た目は子供だが、冒険者は年齢、身分、種族に囚われることなく誰でもなることが出来る、とても開かれた職業である。別の言い方をすると、仕事がない人の「最後の砦」なのかもしれない。



「お待たせしました。名前をお伺いします」

「僕はカインで……、私はシルフィー=クライ%&$#」



シルフィーが苗字を言いかけたので、カインは背伸びをして必死に彼女の口をふさぐ。彼女が最後まで言ったとしても顔がヒューマンなので誰も信用しないとは思うが、いらぬ騒ぎになるかもしれない。シルフィーは自分が何を言いかけたのか理解し、恥ずかしげにうつむく。



「プレートが完成しました。名前の確認をお願いします。最初は皆様、Gランクからとなります。詳しいことはこちらに全て書かれているので一読してください」



紙には冒険者のルールが箇条書きにされていた。



・ランクはSS、S、A、B、C、D、E、F、Gにわかれている


・自分のランクの一個上と一個下の依頼を受けることができる


・冒険者が怪我や死亡してもギルドは一切の責任を持たない


・Aランク以上になるとギルドの馬車を無料で使うことができる


・パーティを組む時はギルドに申請をする


・パーティーランクは最高でAまでである


・AランクからSランクに上がるにはある条件を満たさなければならない



 内容を通し読みしてシルフィーを窺うが彼女も読み終えたようで、パーティーの申請を行う。パーティー名は適当に「死の海」にした。正直、こんな名前のパーティーなど誰も入りたくないが、パーティー名の良さなど一銅貨にもならないためこれでいいのだ。


 

 二人は、冒険者登録を終え依頼書が貼ってあるスペースに移動する。


 そこにはSランクはサラマンダーの討伐からGランクは庭掃除など様々な依頼書がずらりと並んでおり、カインはその中から薬草依頼の紙を選び、さっきの受付に提出する。「アーティチョークの採集ですね。受理いたします」



 受付とのやり取りを終え、早速アーティチョークの採集へと向かう。


 シルフィーによると、その薬草は利尿効果があり帝国内にはある程度広く分布しているという。一株銅貨三枚とあまりおいしい依頼とは言えないが、大量に収集すればそれなりの額になるという。皇太子であるカインのお小遣いは月に金貨三十枚のため、はした金にもほどがあるが……。



 王都から一時間程離れた草原へとやってきた。

ここは多くの種類の薬草からEランクのゴブリンやスライム、Dランクのコボルトなどの低ランクモンスターが生息している、まさに新人冒険者のための狩場といっても過言ではない。



 カインとシルフィーは小川のほとりにたどり着くと薬草採取を始める。そこにはアーティチョークだけでなく、強精に用いるイカリソウや解毒に使われるセリなど一株の単価が高いものも存在していた。それらをごっそりと採り、店で買った袋の中に入れる。



二人で黙々と作業をしていると遠くの方から叫び声が聞こえた。二人はほぼ同時に声が聞こえた方向に顔をむけて様子を眺める。そこには冒険者と思わしき三人がコボルトの群れに襲われいた。群れといっても二、三十頭ほどだが、新人冒険者にとっては荷が重いだろう。また、近くに冒険者もおらずカインたちが助けなけなければそのまま死ぬだけだろう。



「殿下!いかがいたします?今からでも一人なら助けられそうですが……。」

「必要ないだろう。ゆっくりとあっちにむかうぞ」

「行かないのではなかったので?」

「せいぜい最期くらいは看取ってやろう」



カインには冒険者を助ける義理など存在せず、逆にどのような顔で死んでいくのか興味すら湧いたのだ。


徐々に近づいていくとコボルトが「何か」に群がっているのがわかる。

黒いコートはおそらく魔法使いのものだろうか。

コボルトが二人に気づくと一斉に牙をむきだして威嚇をしてくる。その大きさは中型犬くらいで全身が黒い毛におおわれている。一頭では何の脅威もないが集団で生活することで、より戦略的な行動をとることができるだろう。



「殿下!全て私にお任せください!三秒かからず全滅させてみせます!」

「いや、半分は僕によこせ。たまには言霊魔法をつかわないとなまってしょうがない」



カインは固有魔法【言霊魔法】を持っているが王宮ではもちろん、学院でも使用することは皆無である。シルフィーがミスリル製のレイピアを抜き上段にかまえる。五頭のコボルトがいっせいに突進してくるが、一振りで三頭の首を斬り飛ばし残りの二頭は腹が切り裂かれ死亡する。



みているだけなのは我慢ならなかったのかカインも動き出す。「お前たち溺れろ」というとコボルトの地面が沼に変化し、いっせいに身動きが取れなくなる。自分たちになにが起こったのかわからず、互いに顔を見合わせている。それから数秒後、二十数頭のコボルトたちは沼のそこへと消えていった。



「終わったな」

「素晴らしいですね!これが殿下の言霊魔法。さすがです!」



「元に戻れ」とカインが唱えると、沼から泥だらけのコボルトが姿をあらわす。それを水魔法できれいにするとシルフィーがコボルトを一か所にあつめだす。死んだ冒険者たちが持ってきたであろう荷車にコボルトをすべてのせ、二人は王都のギルドに引き返す。冒険者たちのプレートは形見になるかもしれないが、受付に説明するのも面倒なのでそのままほったらかしにした。



一時間で王都ギルドに到着した。依頼を受けた時よりもかなり混んでおり、長い列に並ぶ。 やがて二人の番になり依頼達成の報告をする。その後、素材の買い取りをして金貨四枚と銀貨五枚になった。コボルトはとくに毛皮や魔石に価値があるが、毎日大量に持ち寄られるため大した金額にはならない。



 こうしてカインの一日は終わったがまだまだ殺したりないのはサイコパスとしての性である。つぎは絶対に人間を殺すことを胸に誓うのだった……。

 







 


 

 



 









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