第6話




 腹黒同士、最終的に意気投合した二人は互いに学園在学中にターゲットを落とそうと誓い合った。

 それを知らぬテオジェンナは腹黒二人を目にして悶えていたわけだ。

 実に無駄なエネルギーを使ったものである。

 生徒会室の床もへこみ損だろう。


 一夜明けて、テオジェンナは心に決めた。もう二度と、ルクリュスの前で取り乱したりはしない。

 次に顔を合わせた時には、ヴェノミン伯爵令嬢とお幸せにと伝えよう。


「あ、テオ! おはよう!」

「はあうっ!!」


 校門をくぐった途端に、天から降り注ぐ光に包み込まれた清らかな花のごとき笑顔を目にしたテオジェンナはその場に崩れ落ちた。


「テオ、大丈夫」

「も、問題ない……」


 テオジェンナは自らを励まして立ち上がった。岩石はこんなことでは砕けないのだ。


「お、おはようルクリュス。昨日のヴェノミン伯爵令嬢は……」

「ああ。実はね、秘密なんだけど」

「ぐふうっ!!」


 テオジェンナが胸を押さえてよろめいた。原因はルクリュスが「秘密なんだけど」と言いつつ人差し指を立てて「しー」っとポーズしたからだ。テオジェンナの胸に響くきゅん仕草No.12である。ちなみにルクリュス以外がやってもテオジェンナの胸は「きゅん」どころか「ぴー」とも鳴らない。


「彼女ね、ロミオ兄様が好きなんだって」

「へ!?」

「それで、僕に協力して欲しいってお願いされちゃった」

「そ、そうだったのか……」


 テオジェンナの体から力が抜けた。

 

(そうか……ロミオのことが……)


「しかし、ロミオは手強いぞ。なにしろ鈍感だからな」

「いや、僕はむしろ兄上を心配しているけどね。蜘蛛の一族に気づかぬうちに絡め取られないか」


 冷静になったテオジェンナはルクリュスと共に校舎へ向かって歩く。

 こうして幼馴染として横にいられればいいと、テオジェンナは思う。


(そう、私はルクリュスの友として、彼の幸せを見守ることが出来ればそれで……)


「でも、兄上に恋人が出来たら、僕ちょっと寂しいな。テオが僕と婚約してくれれば寂しくないんだけど」

「ふぐぅんぬっ!!」


 テオジェンナはばったーんと仰向けに倒れた。


「テオ、大丈夫?」

「いっそ殺せっ!! 剣は私が持っている!! さあ、ひと思いにっ!!」


 もはや剣で刺し貫いて貰わねば、心臓が跳ねてどっかに行ってしまいそうだ。

 暴れる心臓を抑えつけ、テオジェンナは息も絶え絶えに叫んだ。


「私はっ……私は、岩石だーーーっ!!」


 生徒会室でその叫びを聞いた王太子レイクリードは、自らを岩石だと主張する侯爵令嬢にはカウンセリングが必要ではないかと考え、宮廷侍医に連絡を取るよう側近達に指示した。


 岩石は小石に勝てるのか、はたまた、小石が岩石を砕くのか。


 岩石令嬢テオジェンナと小石ちゃんルクリュスの、(テオジェンナは知らない)戦いは始まったばかりである。





岩石侯爵家の小石ちゃん:完

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岩石侯爵家の小石ちゃん 荒瀬ヤヒロ @arase55y85

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