第7話 我は汝を支えん③
「僕は、世界の番人のせいで、天から落ちてきた存在だからね。とても困っている時に助けてくれたファーレンシアとセオディアには恩義がある。彼等のためにエトゥールを救いたいと思った。そういう意味では、これも僕が選択した基準のひとつだよ」
「……義理堅いですね……」
「そう?でも、僕は地上に対して平等ではないんだよ。例えば、ファーレンシアが不当に傷つけられたら、僕はその犯人を地の果てまで追いかけて復讐するだろう」
思わぬ言葉にミナリオは、軽く口をあけ、カイルを見つめた。
その反応にカイルは目を細めた。
「ミナリオ、僕をなんでも許す
「え?!いや、そんなっ!そんなことは……」
ミナリオの目が泳いだ。
カイルはさらに目を細めて、ミナリオを金色の瞳でじっと見つめた。ミナリオは視線を逸らしながら、そっとカイルから習った
「…………
「…………こういう不意打ちの訓練のたまものだと思っています」
「で、なんでこういう質問をしたの?」
「正直、カストに手を貸すとは、思わなかったからです。主人の行動が先読みできず、理解できないとは、専属護衛失格にも等しい」
どうせ心を読まれる可能性があるなら、正直にぶちまけてしまえ――ミナリオは開き直った。
カイルは困ったような表情を浮かべた。
「ファーレンシアにも、言ったけど――」
「存じてます。『許すとか歩み寄る行為は、気持ちの落としどころを見つけることなので、許せないという気持ちは一つの結論だ』と。考え続けていましたが、よくわからなくなったので。カイル様にはカストはどのように
「さっきも言ったけどカストという隣国は、僕にとっては、エトゥールと同じ地上の民という
「…………恩義があるエトゥールと同等なんですか?」
「同等ではないよ」
カイルは再び苦笑した。
「物事を考える
「ハーレイ様にも、そうおっしゃってましたね」
「結局、許しと言う行為は、自分が落とし所を見つけるしかないんだ。無理に許そうとしても
あっ、とミナリオは声をあげてしまった。確かにエトゥール創設時代のできごとなど、ミナリオの思考の
「だから、言ったでしょ?物事を考える
カイルは言った。
「何が悪いというわけではなく、全てが複雑に
「ま、待ってください」
混乱したミナリオは、カイルを制止してカイルの言った仮定を指折り
「あ〜〜、うん、そうなるような気はした。状況を追いかけるのは僕でも難しいから」
カイルはミナリオの肩をぽんと叩いて、
外見上は年下の
「初代の問題は複雑だから置いておこうか。現代の問題の一つである隣国の侵略の原因がカスト王にあるなら、その方向を内から変えれるようにガルース将軍を援助したにすぎない。あのお爺様は、地位が高いけど、柔軟な思考の持主だった。それこそ、僕より義理堅い」
「――」
「だいたい将軍達に
「あ!」
「通常、使者が殺害されたら、報復と交渉決裂の
カイルは
「それをシルビアは、古傷を治療するという真逆の
「え?!」
ミナリオは驚きの声をあげた。
あの場にいた誰もが驚いたメレ・アイフェスの
「え?いや、まさか……」
「シルビアに対する点数稼ぎや
「な、な、な、なんだって??」
それまで黙って話をきいていたクレイは、エトゥール王の思惑よりも、別の意味でミナリオが語る内容に
カストの大将軍の対応についての賢者の行動の話題が、自分に飛び火している。そんな心情とシンクロしているように、エトゥールの空に、また一つ大きな火球がよぎっていた。
「ま、まさか、カイル様は私の過去を――」
「当然、ご存じですよ」
「?!?!!!」
「……俺の……俺の黒歴史が……バレている……なんてこった……
一人称がかわり、ぶつぶつと
「あ、兵団長がそんな風にこの件で動揺した場合の伝言を、カイル様から預かっていますが……」
「………………なんて?」
「『
「………………………………え?」
密かに交際中のはずのエル・エトゥールの
「ちょっ、ちょっと、待ってくれ。そもそも俺――じゃなく私が、動揺するって、
「『こうどうしんりがく』と言うそうですよ?」
「こうどう……?」
「なんでも行動を観察すると、手にとるようにその心理などを分析できるとか。団長が、そもそも筆頭侍女であるマリカになかなか結婚申込をしないのは、戦争で
ミナリオの言葉に、クレイは
そもそも「前職」とメレ・アイフェスは言葉を取り繕っているが、「お忍びででかけていた少年時代のセオディア・メレ・エトゥール相手の
全てが肯定されたことに、ミナリオは感心した。
「カイル様の
「…………助けた?」
記憶にはない。
あの時点でマリカは
ミナリオは少し笑った。絶望の大災厄の中に、未来の希望が生まれることはいいことだ。
「カストの問題も解決に向かうし、結婚申込の障害は全てなくなりますよね」
「…………なんてこった」
クレイは一度、両手で顔を
「これは、何が何でも生き延びないと……」
生き延びて、避難地にいるマリカと再会し、多くのことを話さなければならない。
ミナリオも
「ですね。ついでにお願いがあるのですが……」
「わかっている。ここはまかせてくれていい。私ももう少ししたら、避難地に移動する」
「ありがとうございます」
ミナリオは短く礼を言って、行動が読みきれない主人がいるであろう中庭に向かうため、持ち場を離れた。
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