第39話 閑話:ウールヴェを育てよう③
確かにそうかもしれない、とカイルは思った。
ウールヴェがどう成長するかなどという知識は、当初カイルにはなかった。それにくらべ、セオディア・メレ・エトゥールのウールヴェは、特使としてたった
ウールヴェは、主人が明確な
「あれ?僕のトゥーラはなんで狼の姿になったんだろう?もしかして、ロニオス――初代がかかわったウールヴェの姿を
つぶやきに似たカイルの言葉に、ギクリとしたのはディム・トゥーラが
『
「ああ、ありうるね」
カイルはあっさりと、ディム・トゥーラの仮説をうけいれた。
ディムは内心ほっとした。カイルのウールヴェが、初代に関わるウールヴェの姿を
カイルのウールヴェと今のロニオスが同じ狼の
想像したら
「ディム?」
『ああ、すまない。
「うん、僕と――」
「あたしとお父さんがします」
ダナティエがさっと手をあげて、立候補した。
「なんで、俺が――」
「あたし、お父さんの不在中に頑張ったんだから、
「うっ……」
娘は一瞬にして、父親の
「何を記録したら、いいんですか?」
『どんな世話をしたか、とか、成体に変化した日にちや、気づいたことはなんでも。そういう記録が積み重なって、「
「
ダナティエは目をきらきらさせた。
その様子にカイルはダナティエ達に一任することにした。適材適所かもしれない。
「記録類はおまかせします。じゃあ、僕は、新しい馬小屋の手配でもしてきます」
立ち上がったカイルの
「?」
左側に、カイルの
「ディム?」
『お前の仕事はそれじゃない』
「はい?」
いつの間にか右腕はガルース将軍に
「うむ、確かに違うな」
「ガルース将軍?」
「絵を描いてくれると言ったではないか。
「え?」
「馬小屋の手配が、一日や二日遅れたところで問題はないが、私の好奇心が満たされず眠れぬ夜を過ごす可能性は、老人の健康維持のためにぜひ回避したいものだ」
「はい?」
『俺も将軍が知る数々の野生馬の絵を見たい』
「ディム?」
『大災厄が近づけば近づくほど、こういう時間はとれなくなる。今だ。今しかない』
「いや、でも、将軍の記憶を
「かまわない」
ガルースはあっさりと承諾した。
「かまわないことないでしょう?記憶を
「それができるなら、ディヴィ達の故郷の絵を描いた時にできていたはずだろう?」
「――」
「できるのに、しなかった。君の誠実ぶりは、メレ・エトゥールを失望させるぐらい、素晴らしいものだ」
「失望って……」
「
「………………………………」
「君は正直で、不器用で、信用に値する人間だ。さあ、絵を描いてくれ。君の絵の才能も素晴らしい。ディヴィの故郷を描いた風景画は最高だった。あの細密な
――カイルは一週間ほど自由を失った。
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