第30話 エピローグ
ディム・トゥーラは同調から目覚めて、しばらく混乱した。
間違いなく、ここは観測ステーションの中の
ウールヴェの同調時には、あれだけ
ベッドに横たわったまま、目の前に手をかざし、指を曲げて肉体の感覚を取り戻す。
自分の中に失望感が生まれていることをディム・トゥーラは自覚していた。同調の最大の後遺症は、意外にも人の肉体の不自由さを感じてしまうことだった。
ウールヴェはなんと自由な生き物だろう。
そして人間とは、なんと不自由な生き物だろう。
これは危険な思考だ、とディム・トゥーラは己の思考に警戒した。どこからが自分の思考で、どこからがウールヴェの思考なのか、ディム・トゥーラですら境界があいまいになっていた。
ディム・トゥーラはすぐに端末にメモを残した。
地上やウールヴェ、同調行為に対する覚書きのメモは、すでにかなりの量になっている。最近の日常が多忙すぎて、メモはたまる一方だ。どこかで、まとめたいのだが、そんな時間を生み出すことができなかった。
――先行する隕石だけで、これだけ苦戦するとは、
メモを書きながら、ディム・トゥーラは
大災厄時にはもっと悲惨な状況になる。いくら予想解析を積み重ねても、実際の体験とは異なるのだ。その時の精神負荷はどれだけのものになるだろうか?
ディム・トゥーラは半身を起こし、
ウールヴェである虎はカイルの元に置いてきた。観測ステーション内を連れて歩くことができないなら、緊急の場合の手段としてカイルに有効利用してもらえばいい。
地上の潜在的なリスクをロニオスが無視するなら、こちらで対応するしかない。
とりあえずエトゥール直下の拠点の再開は、ロニオスに報告する必要がある。クトリが指摘した事項も、意見が聞きたかった。
ディム・トゥーラは、ふと西の地の未来予知を職業とする不思議な老婆の言葉を思い出していた。
――集まった配下の協力者が全て味方だと思うな
――気をつけろ、カードを全てひっくり返される
――数字に気をつけろ
――数字だ。そこに痕跡が残る
――お前はちゃんと正しい道を選択する。それについては心配はない
ディム・トゥーラはいくつか理解したことがあった。老婆の言葉選びは
今観測ステーションで集められているのは、ジェニ・ロウやエド・ロウの視点からいけば「配下の協力者」だった。その中に
地上の老婆の言葉は、すでにロニオスには告げてある。ロニオスはその言葉に複雑な表情を一瞬だけ見せた。何か彼自身が察した点があるかもしれない。
確認することが、山ほどあるな。
ディム・トゥーラは身支度を整えて、作業を続けているロニオスと合流するつもりだった。
『ディム・トゥーラ』
思念が飛んできた。
この規格外の親子には、俺の行動専用の探知機でもあるのか?――ディム・トゥーラは本気で思った。
『……おはようございます』
『今は、夜だがね』
ピリっと皮肉が効いた指摘だが、ディム・トゥーラは最近ロニオスの対処法を学んでいた。
『そうですか。ではもう一眠りします。おやすみなさい』
『
これまた、でかい
『行きます』
旧エリアのロニオスの隠れ家と化している
彼等に笑みはない。
「地上組に問題はないかしら?」
「問題は大有りです。あとで報告するので意見をください」
ジェニは息をついた。
「どこも問題だらけね」
「どこも?」
ディム・トゥーラは、聞き
『まずは、こちらの問題から説明しよう。地上の
「今でも納得していないわよ?未来が見えるなんて、貴方の上を行く規格外じゃないの」
ディム・トゥーラはその言葉に笑った。
エトゥールの王族以外の規格外の能力者が存在しているのだ。『
「それで?」
『
「何ですって?いったいどういう意味で?」
「人選を誤ったという意味かしらね。私の責任でもあるわ」
ジェニ・ロウが珍しく落ち込んでいる。
「もう少し、はっきりと言ってください」
ディム・トゥーラの要求に、二人と一匹が意味ありげに視線をかわした。
『君が怒り狂って、殴り込みをかけないと誓うなら』
「……なんですか、それは」
冗談かと思ったら、本気のようだった。沈黙が続き、根負けしたのはディム・トゥーラだった。
「わかりました。殴り込みは、しません。誓います」
棒読み口調で、嫌味ったらしく片手をあげて、宣誓してみせる。
「で、何です?」
『妨害工作が発覚した』
「妨害?どういった?」
『単純に言うとだね。旧ステーションの
「…………は?」
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