第18話 変革⑤
『30分後にはくる。久しぶりの帰還だから、姫も話したいことが山ほどあるだろうから、少し時間を与えた。俺はあんたのガス抜きのために先に来たんだ』
「ガス――」
『あんたに
「――」
ディム・トゥーラの言葉に笑ったのは、エルネストだった。
「確かにそれはめんどくさいな。同じ
『だろう?
アードゥルはしばらく、
「君に聞かせてどうする」
『さりげなく、カイルに指導・説得……かな?』
「それができていれば、こういう
『その通り』
「開き直るな」
『あんただって、この件に腹をたてているのは事実だが、訪問目的はそれだけじゃないだろう』
「――」
『本題をきこう』
「――警告だ。地上の民に肩入れしすぎるな。彼等は身勝手で、
「血のなせる
「エルネスト、私は遺伝子論を語りたいわけではない」
アードゥルは無表情に言った。
「エトゥールだけの救済が
「まあ、私も
「エルネスト、ふざけるな」
「私は本気なんだが、認めてもらえなくて残念だ」
『火薬庫のそばで花火遊びをするのはやめてくれ。あんたの
「私をアードゥルの
『!!!!!』
「ガス抜きの一つの手段に怒りの矛先を変えるというものがある」
『ガス抜きには来たが、爆風を浴びる自己犠牲心はない』
「そうかな?案外、カイル・リードのためなら、それぐらいできそうだが?
『――』
ウールヴェはアードゥルに向き直り、エルネストに対する感想を述べた。
『……彼は、イラっとさせる性格だな?』
「……私は五百年以上、それにつきあっているんだ」
『同情を禁じえない』
「イライラするのは、認めたくない真実を指摘された時という、心理学の論文があるのを知ってるかね?」
「……………………」
『……………………』
アードゥルと
この時点で、ほぼガス抜きは完了したような状態だった。そういう意味ではエルネストはアードゥルの対処に五百年の経験値があるとも言えた。
黙ってやり取りを見守っていたミオラスは感心をした。彼女の視線に気づいたエルネストは片目をつぶってみせた。
『ええっと、なんの話だったか……』
「あの馬鹿をどうにかしろ」
アードゥルは
『
「政治家の
『これしか回答できない立場というものを今、思い知っているんだ。だが、あんた達もロニオスの息子優先でいいと言ったじゃないか』
「……だいたい、戦争の口実をつぶす手段を考えたのは、メレ・エトゥールか?」
『カイルが発案し、メレ・エトゥールに許可を求めた。あんた達も、どうして
「旧式で、水平展開を二か所しかできないタイプだから、そうそう問題ないと思ったんだ。てっきり国境と王都に設置して、兵団の輸送に使うと思わされた。『戦争が起きそうだから、大量に人員を輸送する手段が欲しい』とは、確信犯的
『上手いな……嘘は言ってない……』
「感心するなっ!あのガキは、そういうところが
バンっと、アードゥルは手のひらで
「彼が
これまた、エルネストが逆なでをするようなことを言い、火薬庫の中に砲弾を撃ち込んだ。
「そういえばそうだったな。
「ということは君も
微妙な表現にエルネストは笑いを含んで突っ込んだ。アードゥルは即座に、ぎろりとにらんだ。
「エルネスト、さっきからうるさいぞ」
「ロニオスの息子を殺さなくてよかったじゃないか。後から知れば、君は死ぬほど後悔していたに違いない」
「――」
「彼がここまで
エルネストはアードゥルを黙らせつつも、フォローのためか、アードゥルの心理を
「エトゥールと敵対しているカストまで関わり救済するとは、いささか暴走すぎるだろう。カストはエトゥール王のウールヴェを殺したという
『それは俺の悩みと完全に一致する。定期的にデカイ釘を打ち付けているのだが、効果があるんだか、ないのだがわからない。今回に限っては、戦争の
ここで、アードゥル達に手を引かれては困る。
ディム・トゥーラは内心焦った。
『ロニオスの息子への協力は、今後見込めないのか?』
カイルをわざとカイルのことを「ロニオスの息子」と表現してみた。
ディム・トゥーラの小細工にアードゥルは
「
『正直、今更あんた達に撤退されても困るんだ。俺には地上の備えはできない。食料の備蓄や爆薬の精製は、あんた達が必要不可欠だ。カストとは戦争回避が前提だ。無駄にエトゥールの民に死者を出すわけにはいかない』
「虫のいい願いごとだとは思わないのか?」
『思っているが、カイルは死者が最小限になる道を望んでいる』
「だから、お人好しって言ってるんだ!!」
『それも認める。ヤツはお人好しで甘ちゃんだ』
ウールヴェは静かに語った。ここで、なぜかディム・トゥーラは部屋全体に
『大災厄をとめる、と世界の番人に
「
『どんなに追及してもロニオスは口を割らないけどな。ロニオスはあの精神生命体と何らかの取引をしている。アレは、どんな時にでも直接的に人を害しないという
「逆の意味とは?」
『その
「――」
「――」
『カイルを衛星軌道上から転移させたエネルギー。シルビアの使った移動装置を破壊したエネルギー。カイルがあんたと
「我々の時は、そもそもそんな妨害が存在しなかった」
『その点を
「ウールヴェもありうる」
『コレが?』
「世界の番人の手足と呼ばれている存在だ。どこからか現れて、どこかへ消えていく。形態もでたらめ。エネルギーを、世界の番人に提供している
エルネストの推論にウールヴェは首を振った。
『むしろ逆だろう。こいつらの空間を
アードゥルは黙り込み、考えこんでいた。
『ロニオスは世界の番人が人間に手を出せないから、悪意ある攻撃から守護するためにウールヴェが作られたとも言っていた』
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