第10話 治療⑦
「暗器を所持した
「……どうやって?」
「不安にかられている集団の中で、平然としている人物を探し出すことは
「――」
賢者の指摘は、もっともだった。だが、
「……避難民の
「それについては、黙秘をさせてください。ただ、エトゥールを
『俺の多大なる
『報酬は、カストに生息している動物情報でいい?』
『取引成立だ』
「まさか、直接訪れたとでも――」
「実際、僕達は訪れました」
時系列の
ウールヴェに騎乗してどうやって移動するだろうか。翼が生えて、空を飛ぶとでも言うのだろうか。
試さなければ、結論はでなかった。
「……そのウールヴェを使ってか?」
「はい」
「……いつ?」
「将軍達が、避難民の
「移動の段取り?」
「それについては現地で説明しましょう」
「……避難民の治療もしたと?」
「もちろんです」
シルビアが代わって言った。
「なぜ?」
「将軍は理由にずいぶんこだわりますね?
「非難は甘んじて受けよう」
「
ガルースはカイルに向き直った。
「ウールヴェに乗せてもらおうか」
「将軍っ!」
「騒ぐな。カストの刺客が心配なら、エトゥールの敷地内でもかまわない。可能だろうか」
「試しに、ここから、中庭に移動してみますか?」
「よかろう」
大きくなっていたトゥーラは、二人が乗りやすいように身をかがめた。
「
「本来、騎乗する生物ではありません」
「そりゃそうだな……」
――よくできる 代表
ウールヴェの言葉にガルースは少し笑いを漏らした。
「行きます」
二人が乗ったウールヴェは姿を消した。それを目撃したガルースの部下たちは
それは全く一瞬のことだった。
部屋の中にいたはずなのに、エトゥール城の中庭にいた。滞在にあてがわれた離宮が見える。
「いかがですか?」
ガルースが返事をする前に、ディヴィの叫びが聞こえた。
「ガルース将軍っっっ!!」
離宮の部屋から
ガルースは彼らを安心させるために、大きく手をふり、無事を知らせた。それを認めたディヴィ達全員が、
ガルースの中で魔の
――魔物じゃないってば
ガルースの心を読んだのか、ウールヴェが言った。
子供が
「すまない。
――許す
ガルースはウールヴェの背から降り立った。
二人が降りると、ウールヴェの身体はみるみる
「……死んだウールヴェと違って、ずいぶん幼い印象がある」
「実際、幼いですよ。食い
――ひどいよ かいる
「だが、こちらの心と言葉をちゃんと理解している賢さがある」
ガルースの言葉に、トゥーラは鼻高々に主人を見つめた。
「こういう風に、
青年の苦情に似た言葉に、ガルースは再び笑いを
――かいるだって
余計なことを言ったウールヴェは、主人に即座に軽く
学習能力は発展途上、とガルースは判断した。
ガルースは夢の中で、死んだウールヴェから得た助言を思い出していた。
ガルースは目の前に立つ自分より若い賢者に頭を下げた。
「エトゥールの
カイルは
「待ってください。僕は何も知恵などありません」
「死んだウールヴェが、民を救いたければ、
その言葉にカイルは固まった。
「なんですって」
「星がカストに落ちるか、
「――」
カイルはガルースをじっと見つめた。
「……嘘じゃないですねぇ……」
「部下も夢で同席していた。彼等の証言を聞いてもらってもいい。信じ難いことだが――私自身そう思っているが――事実だ」
賢者は、なぜか吐息をもらした。
即座に拒否されなかったことに、ガルースは
「ですが、長年エトゥールと対立してきた歴史を振り返ると、いささか虫の良い願い事だと思いませんか?」
賢者の言い分は、真っ当だった。
「今回の出来事で、歴史書を
「返す言葉もない」
「そもそも、悪魔の国と定義されているエトゥールの賢者の助言が欲しいと?」
「民が助かるなら」
責任と重圧を背負っている目。
それはエトゥールに初めて降り立った時、カストの侵攻に対して地図を乞うたセオディア・メレ・エトゥールの眼の光と同じものだった。
突然、カイルは発狂したように叫んだ。
「ああ、ああ、ああ、もうやんなっちゃうよっ!!世界の番人とメレ・エトゥールの手のひらで、転がりまくっているじゃないかっ!!すごく気に入らないっ!!最善策であっても、気に入らないっ!!」
金髪の青年は口調をがらりと変え、両手で自分の髪の毛をかきむしっていた。ガルースの方が、その様子にギョっとした。
「メレ・アイフェス?」
「ガルース将軍、わかってます?そう言い出すことが、すでに
「
「メレ・エトゥールはね、貴方がカスト王よりも民のことを案じているところに、まさにつけ込もうとしているんですっ!!」
カイルは老将軍に人差し指を突きつけた。
「……それを私にバラしていいのかね?」
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