第7話 治療④
「まず、一点ほど指摘させていただきます」
賢者は、卓の上で指を組み、代表者であるガルースを
「カストの文化にある、エトゥールに対する
「やや、難しいな、それは。長年染みついたものがある」
ガルースは
「そうでしょうね。それが地上の文化の歴史でもあります。その点は理解していますが、僕が話す内容は、その
「まあ、すでにそうだな。一応、留意しよう」
カイルは、自分が描いた絵を指でつついた。
「この絵は、僕のウールヴェに案内されて、僕達が連れて行かれた場所です。西の地の若長も同行していましたから、彼に証言を確認していただいても結構です」
「そこはどこか?」
ガルースの問いかけは当然だった。賢者は困った表情を浮かべた。
「西の地を何日か歩いたあとに、聖域と呼ばれる地に入りましたが、その――信じていただけないと思いますが――忽然と森が消え、この場所にいました。彼も一緒にいました」
カイルは専属護衛であるミナリオを振り返った。専属護衛は頷くことで主人の証言を肯定した。
「
専属護衛の静かな証言に、使節団に
ガルースは考え込んだ。先ほどのガルース達の寝起きの議論を盗み聞きしての、でっち上げという可能性はあるだろうか?
「何をしに、そこへ?」
カイル・メレ・アイフェス・エトゥールは、再び困ったような表情を浮かべた。
「ちょっと込み入った事情で僕の相棒である人物のウールヴェを探しに」
「相棒である人物?それは賢者なのか?」
「ええ」
「賢者もウールヴェを使役すると?」
「実際、僕も使役しています」
「だが、一度も見かけていない」
「カストがウールヴェを
「我々に害されることを恐れて?」
「正直それは否定できません」
カイルはあっさりと認めた
「貴女もウールヴェを持っているのか?」
ガルースはシルビアに問いかけを投げた。
「はい、持っています」
ガルースはカイルを見た。
「で、その地に、わざわざウールヴェを探しに?ウールヴェなど
「その通りです。僕たちは少々特殊な条件下で、すでに成長したウールヴェが必要だったのです」
「なぜ?」
「僕たちの故郷という遠方の賢者と連絡をとるために」
「――よくわからない。連絡をとるためにウールヴェが必要だと?」
「それは僕たちの加護の事情と思ってくださって結構です」
ガルースの困惑は広がる一方だった。賢者の説明は、
「ここからは僕のウールヴェの証言をもとにした
ガルースは賢者があっさりと不可思議な一致を受け入れたことに驚いた。
「我々のこの
「信じます」
「なぜだ?我々がエトゥールに罠をかける可能性もあるのでは?」
「僕は嘘を見抜くことができます。それに精霊を否定する文化を持つあなた方に、話をでっち上げるメリットはないからです。むしろ逆ではないですか?説明できない状況に
「……よくわかるな……」
「僕がそうでしたから」
カイルは苦笑して答えた。ガルースは眉をひそめた。
「……メレ・アイフェスがなんだって?」
「私たちの中で、一番
ガルースの質問に、シルビアが
「認めようとしなかった?メレ・アイフェスが?」
「ええ、エトゥールの守護の
「――」
「シルビア、だから僕の
「事実ではありませんか」
「僕にだって、姫の婚約者として、客人に対して見栄を張りたいんだよ?」
「それを
「……毛嫌いとは?」
ガルースは馬鹿正直な治癒師の方に問いかけた。
「精霊鷹が腕にとまっただけで、硬直して、姫に助けを求める有様でした」
「シルビア!」
使節団一行は、メレ・アイフェスの
カイルは少し顔を赤くして、咳払いをした。
ガルースは質問を重ねた。
「毛嫌いをしているのに、精霊の
「僕達も滞在当初はウールヴェについてよくわかっていませんでした。貴族が飼う犬や猫の
――犬じゃない
盗み聞きをしているトゥーラから抗議の思念が飛んできたが、カイルは
「
ガルース将軍以外は、皆、首をふる。
「掌に乗る大きさの白い毛玉だった」
「そうです。それが狼に似たものに成長したり、イタチぐらいの大きさだったり、私達の加護に反応して、会話ができます」
「――」
その証言に、将軍をはじめとする使節団全員がドン引きしていた。
「……ウールヴェが
「あー、はい」
「夢の中ではなく?」
「
カイルは作戦のミスに、頬をぽりぽりとかいた。馬鹿正直に言い過ぎた。次の展開が読めてしまった。
「証明をしてもらおうか」
「ガルース将軍」
「ウールヴェが
「ガルース将軍」
できるもんならやってみろ、とばかりにガルースは胸の前で腕を組み、カイルを
カイルは深くため息をついたが、おもむろに席をたち、テーブルにあったデザート用に山積みされていた
行動の
「……なんだね、それは?」
「
「いや、
「いいから、手に持っていてください。いまから説明します」
ガルース将軍は、
「ウールヴェは利口な生き物です。仲間のウールヴェが、カストで
「それと
「恐怖を
「は?」
「トゥーラ、将軍閣下が
賢者の妙な召喚呪文に反応して、賢者の横に純白の狼が出現し、カストの使者達は驚きの叫びをあげた。
「……僕のウールヴェは、このように、ちょっと
――
ウールヴェの怒ったような抗議の声が、全員に聞こえ、
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