第32話 閑話:宝物
その教えをファーレンシアは、守れそうになかった。
口元が
「……ファーレンシア様……」
看病を口実に出入りを許されたマリカは、やや
「わかっています」
わかっていながらも、ファーレンシアは自分の顔が緩むのを感じていた。ニヤニヤ笑いが止まらない。
「でも、でもですよ?」
ファーレンシアは握りこぶしを作り、強く主張した。
「嬉しさのあまり、羽根が生えてどこかに行ってしまいそうです」
「……すでに、冷静さがどこかに行っております」
彼がファーレンシアに与えた贈り物は、思わぬ
ファーレンシアと、マリカには理解できなかった。
カイルの絵よりさらに
しかも、賢者はそれとは別に、チャームが開閉式のペンダントトップをプレゼントしてくれたのだ。
不思議そうに受け取り確認したファーレンシアは、そのチャームにカイルの小さな精巧な絵が組み込まれていることを知って、
「ディム様っ!これは!」
『カイルの写真だ』
「こんなちいさな細工の中に、組み込むことができるのですか?!」
姫の興奮ぶりに、ウールヴェはやや引いた。
『お茶の子さいさいだ』
「素晴らしい!ありがとうございます!一生の宝物にします」
『大げさな』
少女はぶんぶんと首をふった。
エトゥールの姫の喜びように、ディム・トゥーラは満足した。
『カイルには内緒だぞ?』
「はい?」
『俺が贈ったとばれると、やっかいだ』
「でも、バレますわよ?」
姫巫女の言葉に虎姿のウールヴェは固まった。
『……姫、それは先見か?』
「はい」
『……そいつは、やっかいだ』
ファーレンシアは、クスクス笑った。
「やっかいかもしれませんが、多分、ディム様の想像の斜め上を行くと思います」
エトゥールの姫巫女は謎の予言をした。
賢者は「端末がないから」と、さらに一冊の本をくれた。
「ファーレンシア様、それは……?」
「見て見て、マリカ、すごいのよ」
ファーレンシアはまたしても、姫らしからぬニマニマした表情を浮かべ、開いた
「カイル様が小さいっ!!」
「ふぉとぐらふぃっく、と言うのですって。こういう本を「あるばむ」と称するらしいわ」
「あの……実際にカイル様がここに閉じ込められているわけではないのですよね?」
「同じ質問を私もディム様にしてしまったわ。動く絵の一部だけを記録する本――らしいわ。天上時代のカイル様がいっぱい見ることができて嬉しい。とりあえず、カイル様には内緒ね」
片目をつぶって、腹心の侍女に共犯を強要する。主人のおねだりにマリカは吐息をついた。
「ディム様が言うには、動く絵を切り取ることは、クトリ様でもできるらしいわ。マリカもクレイの「ふぉとぐらふぃー」のペンダントトップを作って――」
ガシッとマリカは主人の手を強く握りしめた。
「クトリ様へのお願いに同行していただいても、よろしいですか?」
「もちろんよ。そのかわり、数日、部屋に引き
主人と侍女の間で、取引が成立した。
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