第31話 閑話:マニュアルを読もう②
二人と一匹は、気を取り直して、さらにメレ・エトゥールの
『この記述がわからない。舞踏会でカイルが「敬服する
ディム・トゥーラは、貴族としての生活の経験があるエルネストに尋ねた。
「風習として、エトゥールの舞踏会では三曲目の相手は、婚約の
『――』
「彼は離れた場所にいる姫に申し込むために、その
『…………馬鹿?』
「場を目撃した私も、当時は同じ感想を抱いた」
エルネストは
「これ以上、目立つ行為はなかった。もしや、彼の作戦だったのだろうか?」
『そんなことは絶対に考えていない』
「そんな気はした……。だが、君もエル・エトゥールの
『あの襲撃はメレ・エトゥールに予想され、俺達は第一兵団のフォローに回っていた。腹芸ができないカイルには襲撃について黙っていた』
「ロニオスの息子には気の毒だが、正しい判断だ」
『俺はあの時は襲撃者の数のカウントに忙しかった。離宮内は、イーレとサイラスに任せていたから、その騒動を見ていない』
「記録があるなら、探してみるといい。2曲目と3曲目の間の小休憩の出来事だ。笑えると思う」
『探してみよう』
イーレが西の地に飛ばされて、カイルが慌てる記述には、エルネストとアードゥルの方が反応した。
「エレン……いや、イーレの確定座標がずれたのは、本当だったのか」
エルネストの呟きとともに、アードゥルは完全に表情を消していた。
「なぜ、こんな事故が?」
『俺にはわからない。この時、俺は大災厄のために
「イーレを保護したのが、若長ハーレイの氏族で幸いだったな」
『そこらへんは世界の番人の配慮があったはずだ。カイルは世界の番人との交渉において、協力する条件に仲間の安全をだした』
ウールヴェはアードゥルを見た。
『この時、精霊鷹を落としたのは、あんたか?』
「そうだ」
『西の地とエトゥールの間に不和をまくために?』
「――」
「私に解説させてくれ」
意外なことに、エルネストがアードゥルを
「ハーレイの氏族が、エトゥールと対立したのは、メレ・エトゥールの親族の企てであり、我々は直接的に関知していない。アードゥルが根絶やしにしようとしてたのは、南の氏族で、エレン・アストライアーを殺害した血族だ」
エレン・アストライアーの件では、エルネストは感情を押し殺し、淡々と語った。
「エレン・アストライアーの殺害に関与した氏族は、複数で二つは当時我々で
『精霊信仰を捨てた?』
「エトゥールの北北東に国境を接するカスト――精霊信仰を捨て、エトゥールへの侵略を試みる小国だ。この国は注意した方がいい。
『それは、エトゥールと戦争をした国だよな?北に砦を持つ侵略国家で、カイルの書いた地図が防衛に生かされた――』
「……エトゥールの国力を削ぎつつ、カストを撃退するシナリオだったが、上手くいかないものだ」
「アードゥル」
アードゥルの呟きに、エルネストが
「ほぼ、エトゥールは無傷だったではないか」
「アードゥル、ディム・トゥーラを刺激するな。その件で、カイル・リードは巻き込まれている」
「私が、彼を地上に引きずり下ろしたわけでもないし、彼の存在を知っていたわけではない。むしろ、こちらの計画は、邪魔された」
ディム・トゥーラは試されていると感じた。
アードゥルは変えられない過去の事実を淡々と語り、ディム・トゥーラの反応を見ている。
『あんたがイーレの
「実際に言われた」
『情がないとか?』
エルネストの方が、
『大丈夫だ、俺も言われている』
「私達は情なし軍団か」
「地上にどうやって情をもてと言うんだ?」
「アードゥル、そこはミオラス以外と正確に言うべきだ」
「うるさいぞ、エルネスト」
ディム・トゥーラは、なんとなく察した。
エレン・アストライアーの
『俺はどちらかというと、姫を最悪のケースで亡くした時、カイルがあんたと同じ憎しみの道を辿りそうな気がして、そちらの方が怖い。感情の行き場をなくして、地上はひどいことになる』
「例の地震のように?」
『そう』
ディム・トゥーラはあっさりと認めた。
『あの時、カイルはコントロールを失った。俺の大失態の一つだ。俺は大災厄とともに、そちらの方をひそかに恐れている』
「だが、姫との
『それと事故死は違うだろう?その心情はあんた達の方が、それこそ理解できると思うが?突然、心の支えを失うんだぞ?」
「確かにアードゥルは、底なしに不安定になった」
「エルネスト、うるさいぞ」
「事実は事実として認めるべきだ。カイル・リードの
やはり挑発されていたのか――初代はやはり、曲者が多い、とディム・トゥーラはため息をつき、その事実を受け入れた。
「安定を取り戻し始めたのは、ミオラスと出会ってからだし、ロニオスとの再会がきっかけでもある」
『最近じゃないか』
「そうだとも。だから、彼が捻くれているのは、大目に見てやってくれ」
「本当にうるさいぞ、エルネスト」
「フォローしているんだ」
「
ディムは笑いの思念を漏らしてしまった。
『いいコンビだな』
「「やめてくれ」」
初代達は不本意だと言わんばかりに、ウールヴェに抗議をした。
カイル・リードと姫の安全を最優先にする――とりあえず、そういう結論に達した。とりあえず、というのは、カイルが起こした地上の騒動が多すぎて、対応策の討論に終わりが見えなかったからだ。
「君は、よく彼の
「全くだ」
初代の視線の同情の視線が痛かった。
『同情するなら協力してくれ』
思わず飛び出たディム・トゥーラの本音に、初代達はあっさり承諾した。
「いいだろう、ロニオスの息子の地上での保護は引き受ける」
アードゥルの方が先に言い出した。
「だが、暴走時は制御の保証はない。それだけは留意してくれ」
『野生のウールヴェの制御はできないと』
「野生のウールヴェの方が、まだ素直で可愛いレベルだ」
アードゥルは、酷評した。
『……そうか……あのマンモス猪が可愛いレベルなのか……』
「君も、カイル・リードとの付き合いが長すぎて、感覚が鈍くなっているのではないか?」
『そうかもしれない』
「まちがいなく、ロニオス級の問題児だ」
『……そんな認定は嫌だ……俺はあの親子に振り回されるのか』
「同情を禁じえない」
「ところで、この書はどうする?」
『まだまだ読み解く必要がある。カイルにバレないように預かってほしい』
「それはいいが、読み解いてもカイル・リードの問題児レベルが上がる一方で、そのうちカンストするぞ?」
絶望の先見をエルネストはした。
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