第21話 解析⑩
『君がカイル・リードの友人でいて
「皮肉ですか?」
『私は以前からそう言っているではないか』
「そうでしたっけ?俺はカイルほどの記憶力は保持していないので」
『
「気のせいです」
『君はエド・アシュルの後継者になれる可能性があるぞ』
その言葉にディム・トゥーラは顔をしかめた。
「やめてください。
『それはエド・アシュルより私の方が好ましいという意味かな?』
ウールヴェの耳はぴくりと反応した。
「誰がそんなことを言いましたか?」
『言ったではないか』
「低次元な最低ラインを争っているだけです」
『最下位ではないということは、極めて重要な
どこまで本気だろうか?いや、冗談だよな?
ディム・トゥーラは判断に迷いが生じた。
血迷って
似ていないようで、息子のウールヴェの行動とどこか似ている。
親子だ――奇妙なところで、ディム・トゥーラは血のつながりを感じてしまった。
「ああ、親子そろって面倒くさい……さっさと解析に戻りますよ。俺とカイルに悪いと思うのなら、
『まだ協力してくれると?』
「当たり前です。カイル達はまだ地上にいるんですよ?貴方一人の手で余るなら手伝ってあげてもいいです。とっとと的確な指示をください」
『……なるほど……これが
「なんか言いましたか?」
『なんでもない』
「解析が終わるまで酒は禁止です」
『なんだって?!』
「死ぬ気で解析をしてください」
『悪魔だ、鬼だ、鬼畜だ――っ』
「それを目指しています」
しれっとディム・トゥーラは言って、
「ねえ……異様なほど、効率が上がっているのだけど?」
ジェニが
「そうですか?」
「貴方が引きこもってから、ロニオスの効率は落ちていたのよ」
「それはびっくりです」
ジェニの相手をしながらもディム・トゥーラの
同様に少し離れた場所にいるウールヴェも思念操作による端末で、空中にスクリーンを展開し、量子コンピュータの解析結果を統合処理していた。
「貴方達、半年分を二週間でこなすつもり?」
「いやいや、まさか」
「そうよね」
「一週間あればいけるでしょ」
「は?」
「ロニオスの
「……貴方、ロニオスを脅迫したの?」
「弟子の脅迫なんて無視すればいいのに、彼も可愛いところがありますね。ジェニ・ロウ、次の解析データをください」
ジェニ・ロウは慌てて、観測チームから送られてくるデータをディム・トゥーラの端末に転送した。
「ロニオスを
「なんですか、その
解析の手を休めることなく、ディム・トゥーラは突っ込んだ。
「エディも貴方に目をつけているし、なるほど……競争率は激しいわね……出し抜かなくては」
「やめてください。俺はカイル・リードの世話で精いっぱいです。あの親子、似ていないようで、手がかかるところは、そっくりだ」
「そうなのよ」
「カイル・リードは知らないけど、ロニオスは時々、子供のように手がかかるのよね」
「時々ですか?」
「……鋭い突っ込みね……」
「ロニオスの息子は、いつも手がかかります」
「それは間違いなく遺伝ね」
「……やはり遺伝ですか……」
「お互い苦労するわね」
「まったくです。ジェニ・ロウ、次のデータを」
解析をすすめるうちにジェニ・ロウは眉をひそめた。
「先行する断片はかなり広範囲に及ぶわね……」
「
「ディム・トゥーラ、国境線の正確な情報が必要じゃなくて?」
「確かに」
「現地の
「
「現地の
「なるほど、すぐにカイルに伝えます」
『カイル』
『何?』
『国境線の情報がいる。詳細はエトゥールに
『そちらの地形図情報をアナログ印刷で送って。そちらの方が正確だし、誤差はなるべく少なくしたい』
『用意しよう。あと
『
『時刻合わせが必要だ。カウントダウンは正確であるべきだ』
『なるほど。待ってて。すぐに用意する』
数時間後、カイルのウールヴェであるトゥーラが地上の
「便利ね……」
「俺も最近、そう思います」
入手した
「ロニオス」
『なんだろうか?』
「貴方、
『ばれたか』
「こんな完璧に春分点や秋分点まで反映させた太陽暦を、今のレベルの地上文明が作れるわけないでしょう?」
『だが、今、役にたっているだろう?』
先の先まで読んでいる。ロニオスは先見の能力がないと言っていたが、これも先見の一種じゃないだろうか?
「貴方とチェスはやりたくないな……」
『そうだな、君は勝てない』
肯定されてディム・トゥーラは、イラっとした。
ざっと中身を検分したディムはすぐに情報を取り込み100年分の暦を作成した。
「そんなにいる?」
「俺達が爆破させるメインの方の破片は、宇宙空間に
「……貴方、専門は動物学よね?いつ宇宙物理学を学んだの?」
「つい最近です」
ジェニ・ロウはディム・トゥーラを
「チップの消耗が激しすぎる――あなた徹夜で宇宙物理学をマスターしようとしているわね?」
「面白くてつい夢中になってしまいました」
作業をしながら、ディム・トゥーラはしらばっくれた。
「今すぐ、体内チップを補充しなさい。さもなくば、今解析しているデータを全消去するわよ」
「な――」
思いもよらない
「作業を妨害してどうするんですか?!」
「研究馬鹿が無茶をしないようにするのも
『抗議するだけ無駄だ』
ディム・トゥーラの抗議を封じたのは、ロニオスだった。
『彼女は本当にする。私達は何本論文を消去されたことか、なあ?』
同意を求めた先は、エド・ロウだった。所長もしみじみと頷いた。
「あれから、まめに
二人の会話に、ディム・トゥーラはこっそり
『本当に
「実際は、彼女の
『なんと、私は君たちの恋の
次の瞬間、ロニオスの作業していたデータは、ハッキングを受け全消去された。
「俺に警告をしてくれた割には、学習能力がないですね?」
ディム・トゥーラは注射で体内チップを補充しながら、
『……酒のお預け期間が延びてしまった……』
「問題点はそこですか?」
ちらりと、ウールヴェは視線を投げてきた。意味することは明白だった。
「解析が終わるまで、酒は禁止です」
ウールヴェのぐったり度が増した。惑星を救おうとしているはずの指導者がこれでいいのか、とディム・トゥーラは内心突っ込んだ。
『……君は、まるでジェニのようだ』
「彼女に後継を
ウールヴェの
『だめだ!それは絶対にだめだ!ジェニ・ロウの後継者なんてとんでもないっ!』
「理由をきいても?」
『君とジェニ・ロウがタッグを組んだら、酒が全面禁止になってしまうではないか!』
発言の内容がただのアル中親父だった。
『だいたい、カイルを放置して、君が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます