第15話 解析④
ウールヴェを殴り飛ばしたディム・トゥーラは
いったい、何がショックだったのだろうか?
カイルの生い立ちか?
それともロニオスの
多分、両方かもしれない。
ディム・トゥーラはベッドに寝ころびながら、終わりの見えない思考の混沌とした渦に身をゆだねていた。
全く無関係だと思っていたカイルとこの惑星が、カイルの生まれ故郷であり、しかも地上人の血を引いている。カイルはただ
人権無視に近いモルモット扱いだった理由の半分は、ハーフだったことだろう。
クローン権限が
ロニオスは面倒見のいいタイプだった。アードゥルの
ある意味、理想の父親像に近かった。カイル同様、肉親と縁が薄かったディムは無意識に理想の父親像というものを重ねてしまっていた。
それが真逆だったのだ。
ディム・トゥーラの行き場のない怒りとやるせなさは、そこに原因があった。
いやなほど、パズルの
問題は、カイル自身がこの事実を知らないことだ。
――俺はカイルに対して、これを
しかもジェニを含めた初代達はカイルに告げるかどうかの重大事項を、こちらに丸投げしたのである!
その事実に気づいたときは、
腹が立つ。腹が立つ。腹が立つ。
あの
荒れるディム・トゥーラの真横に、ウールヴェの巨体が乗り込んできて、そっと寄り添った。
「………………」
ディム・トゥーラは専用の抱き枕のようにウールヴェをがっしりとつかんだ。言葉を語らないウールヴェからは、心配する
ディム・トゥーラはウールヴェの利点を見出した。ウールヴェは裏切らない。
それは
ディム・トゥーラは、初めてカイルのウールヴェに自分の名前がつけられたことを許せる気分になった。
結局、ディム・トゥーラが業務放棄して、ステーションの
『ディム、解析が忙しいのは、わかっているけど、時間が作れるかなあ?』
カイルが地上から思念を投げてきた。
――馬鹿め、俺は解析をサボっているんだ
など、と返事はできない。
「なんだ?」
『邪魔して、ごめん』
「大丈夫だ。今、
嘘は言っていない。
『初代達が、ディム・トゥーラと話したがっている』
また、初代か。
地上のアードゥルとエルネストのことを指すのだろうが、観測ステーションの初代達に反感を覚えている今、イラつきは増幅した。だが、それをカイルに悟られるわけにはいかない。
「俺には、話すネタはない」
『そういうと思った。向こうはネタを
「何を?」
『僕のこととか、僕のこととか、僕のことを』
「――」
ディム・トゥーラは、思わず寝ていたベッドから身を起こした。
「……何をやらかした?」
『ディム、シルビアと同様に失礼だよ?彼女にも、よく言うけど、僕は毎回やらかしているわけでは――』
「俺には、お前がやらかした記憶しかないのは、何でだ?」
カイルのウールヴェがイカ耳になって、しょんぼりした心象が伝わってきた。把握できるのは便利だが、面倒くさかった。
『はい……おっしゃる通りです』
「俺が地上にウールヴェで行けばいいのか?」
『ああ、うん』
「アードゥルと
『
「ないわけではないぞ?」
『なんか、アードゥルに似ているね。リードと対面したとき、
よく、
あの時、ウールヴェのリードと同調していて、アードゥルとロニオスの規格外の能力を目撃していたが、確かにアードゥルなら相手を瞬殺できただろう。
ディムは考え込んだ。
「……お前のことで、俺が指名されるということは、お前の取り扱い説明か」
『うっ……その通りです』
「どこに行けばいいんだ?」
『前と同じ、花畑』
ディム・トゥーラは傍らのウールヴェを見つめた。行けるか?の問いかけの視線に、虎は黙って
「同調した姿でいいんだな?」
『もちろん』
「日時を指定してくれれば、いつでもいける」
『え、いいの?忙しいよね?』
「家出したい気分なんだ」
ディム・トゥーラは
「君が、カイル・リードの
紳士的に
『ディム・トゥーラだ』
ウールヴェは、銀髪の若返った初代をつくづくと
『……シルビアの親族?』
「……彼は地上でも同じ突っ込みを受けているよ。所長がエルネストの親族を担ぎ出していても、もう驚かないけど」
ウールヴェはあたりを見回した。
屋敷そばの庭にテーブルがあり、女性達がいた。そのうちの二人がシルビアと姫だった。もう一人は見知らぬ女性がいた。
その美女の外見上の
『誰だ?あの規格外は』
距離がありながらも、ミオラスの能力を見破ったディム・トゥーラに、アードゥルもエルネストも感心した表情を浮かべた。
「彼女は地上人で名前はミオラス、今はエルネストが
『
「僕とファーレンシアが教えている」
『なぜ女性陣がいる?』
「気にしないで、お茶会をしているだけだよ」
『お茶会?』
意味が理解できずに、ウールヴェはカイルではなく、初代達に視線で説明を求めた。エルネストが肩をすくめた。
「前回の事件で、我々はすっかり女性陣の信用をなくしたんだ。天上から訪問者の再来に
『女性の
「これは手厳しいが、誰を基準にしているか聞いても?」
『エド・ロウとロニオス』
「
『ジェニ・ロウ』
ぷっ、と吹き出したのは、意外なことに沈黙を守っていたアードゥルだった。エルネストも納得した表情を浮かべた。
「正しい認識だ。ロニオスは副官だったジェニ・ロウに頭があがらない。ロニオスのやらかしたことの
『なるほど』
「そこ、納得しないでっ!」
『非常にわかりやすい例えだった』
「そうだろう、そうだろう」
エルネストとディム・トゥーラは、
『カイル、女性達のお茶会に行ってきていいぞ』
「え?」
『俺達はお前について、今からこき下ろす。聞いて落ち込むよりは、姫達とお茶をした方がいいという
「僕の何を言うの?!いや、だいたい、それって
『お前が俺に報告していないことがないか、聞き取り調査に発展する可能性がおおいにあるが――それでも同席したいと?』
「な、なんか、急に
カイルは冷や汗をかき始めた。報告していないことが多数あり、とディム・トゥーラは判断した。
『退席するなら今のうちだ』
カイルはすごすごと女性達のいる屋敷そばのテーブルに向かった。
エルネストが手を
「見事な扱い方だ」
『動物学専門なので、
しれっとディム・トゥーラは言った。
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