第6話 模索⑥
――これ、いったいどういう状況なんだ?
ディム・トゥーラと世界の番人の対話が成立していた。
ディム・トゥーラはカイルの
それにしても野生のウールヴェ並の
今までの行動は、最善の行動を模索して選択した結果だと言えた。世界の番人は東国のアードゥルとの対決に引き
あのとき、イーレやサイラス、アッシュとハーレイが死んでいれば、未来は確実に悪い方向に変化していたはずだ。世界の番人を巻き込んだことは、最善の策だった。
今でもカイルはそう判断している――が、皆はカイルの無謀さを責めるばかり、だ。
――もっと
カイルは切ないため息をついた。
その様子をシルビアが見ていた。
「常々不思議なんですけどね?カイル」
「何?」
「貴方は他人のことをよく見ているし、その心情を見抜くことに長けている。その能力は素晴らしいものだと思いますが、どうして自分を対象にした心情には
「
「貴方は地上世界を救う重要な役割を担っているのに、皆が言うように自分の安全を軽視しすぎです。ナーヤ様が先見により、西の地の
「………………はい?」
――――
「でも――」
――――言うな
「……はい」
口止めにあい、シルビアは不満そうだったが口をつぐんだ。それからカイルに
カイルは口を軽くあけた。
世界の番人がカイルの身を案じてナーヤ婆に先見を見せたというのだろうか?
カイルは精霊鷹を見たが、彼はカイルの視線を無視するかのように、虎のウールヴェに話をふった。
――――直接落下している場面は、見るに耐えかねる情景だ
『その点は同意する。カイルの
――――無理な注文を……
「場所と日時を指定してはどうだろう」
カイルがつぶやくように言った。
「例えば大災厄の三日後で、指定した村とエトゥールでの正午の光景を見るというのは」
『俺が知りたいのは
――――これまた無理な注文を……
世界の番人は呆れたように要求を評した。
『じゃあ何ができる』
――――そうだな。滅びることが確定している場所は映し出すことはできる
『確定だと?』
――――そこの住民を優先的に避難させる。最後の王が望んでいるのは、そういうことだろう。
カイルは精霊鷹を
メレ・エトゥールもファーレンシアもそれについて静かだった。
世界の番人が、もたらした
セオディア・メレ・エトゥールは、最後の王である――それはエトゥールという国が
シルビアはメレ・エトゥールとの間に子供を
カイルの動揺に気づかないように、メレ・エトゥールの世界の番人に
「ご指摘の通りです。我々は、まずエトゥール国内で確実に滅びる村や町を知る必要がある」
――――だが
「
――――映し出す未来の
「なるほど、村や町の特徴的なシンボルは
「太陽の位置で
カイルの提案は即座に否定された。
『大災厄直後など、しばらくは舞い上がった
「では、落下前日の同じ場所の光景を見せて」
――――……………………
「その二つがあれば、僕たちは情報をある程度、
カイルは主張した。
カイルの言葉をきいた虎のウールヴェが、これ見よがしに溜息をついた。
『どうして、お前はツメが甘いんだ……』
「はい?」
『前日の光景を見て、太陽か星の位置で緯度と経度を割り出し、時期と位置を
「うん」
『その条件で、指定した前日の天気が雨か曇りだったらどうするつもりだ?』
「あああ!!」
カイルは指摘に
「えっと、えっと、じゃあ、やっぱり大災厄後の晴れ間を見るべき?」
『今回の恒星間天体の一方の影響が未知数だ。
「そういえば、そうだった!」
再び白紙に戻った先見条件に、精霊鷹は辛抱強く何も
「エトゥールの正午か真夜中を指定するつもりだったのか」
メレ・エトゥールがカイルの
「う、うん」
「ディム殿、発想は悪くないと思う。天候がよければ、被害位置が特定できるのだろう?ディム殿の世界の知恵によって」
『太陽や星の見え方による位置の割り出しはクトリが得意だ』
「天候が悪くても街の特徴が絵に描かれていれば、それは我々の方で
『どうやって?』
「侍女や兵団には地方出身者も多い。自分の故郷が絵に描かれていれば、気づくだろう」
『……なるほど』
「商人ギルドも利用できます。彼等はほとんどの街を熟知していますから」
ファーレンシアも同意した。
ウールヴェはしばし考え込み、それからカイルを見た。
『お前の負担が大きいことが気がかりだ』
「ディムが
『根拠もなく言うな』
「根拠はあるよ。長年の経験の勘と付き合いからの判断。ディムが出来ないなら、誰にもできないし」
『――』
虎のウールヴェは何とも言えない複雑な表情を浮かべた。
「何?」
カイルの問いには答えず、ウールヴェはシルビアの方を見た。
『――
シルビアはディム・トゥーラが何を言わんとしているか、正確に理解して、
「そうなんです。地上にも犠牲者は多数出ています」
『そんな気はした』
「一番の犠牲者は、ファーレンシア様です」
『そうだろうとも』
「……私が、何か?」
「シルビア、何の話?」
ファーレンシアとカイルは
「貴方の無自覚人たらしスキルの
「!」
「…………はい?」
「ほら、やっぱり無自覚ですし」
ウールヴェは再びため息をついた。今度は
『こればかりは、試すしかないか……。
――――よかろう
『場所は?』
――――ここがいいだろう。場として安定している。
シルビアとファーレンシアは敷布と人数分のクッションを手配した。紙とインクと羽根ペンを手にして、待機しているのは、ミナリオだ。
カイルは敷布に寝転び、いつものように同調姿勢をとった。
精霊鷹は一番近くの長椅子の背に静かに移動をしてきた。最初の威圧は完全に消えていた。
ディム・トゥーラが同調している虎のウールヴェは、カイルの真横に陣取った。
『初回探査時みたいな無茶はするなよ?約束を破ったら、今度こそ
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