第5話 模索⑤
整然と並んだ、一番入り口に近い場所の長椅子の背もたれを止まり木にして、いつのまにか赤い鷹が一羽存在していた。いつもの精霊鷹ではないことは、
聖堂内もいつもの
世界の番人の
すぐにメレ・エトゥールとファーレンシアが最上級の礼をし、シルビアが精霊鷹に話しかけた。
「来ていただき、ありがとうございます」
――――礼には及ばぬ
――――その
いきなり、
カイルはますます焦った。
――――要望はわかっている
――――
「はい?」
まさかの
――――だが、
――――背に腹は変えられぬ。仕方あるまい
カイルは、軽く口をあけた。世界の番人は本当に歩み寄る気があるのだろうか。
「僕が
――――
今ここで
背後にいるディム・トゥーラが同調している虎から、非常にひんやりとした空気が流れ始めた気配があった。その感情の相手は世界の番人ではない。
『アードゥルとの対決のことだな?その話、もう少し詳しく』
余計なリクエストが生まれた。
『イーレをかばって、単純に刺されたのではなかったのか』
――――この
『…………ほお』
だらだらとカイルは冷や汗を流した。
突き刺さる。ディム・トゥーラの
世界の番人の
『……俺は、イーレをかばって刺されたとしか報告を受けなかったな』
ぼそりとディム・トゥーラの思念が響く。
ファーレンシアもカイルを
メレ・エトゥールは小さなため息をついた。
シルビアだけは平然としていた。おそらく、サイラスとイーレから事情を当時の状況を詳しくきいていたのだろう。
――――頭が悪すぎる
――――これの飼い主なら、そこらへんは
『
「ちょっと!!」
『躾のいい案があるなら、ぜひ聞こう』
――――野放しにするな。野生のウールヴェより
『残念ながら、距離があって監視はかなわない。それはそっちが引き受けてほしいものだな』
――――大災厄がなければ氷漬けにしたいところだ。こちらの予想を裏切る行動ばかりをする
『それは彼の仕様だ。
なんなんだ、この展開は。
世界の番人とディム・トゥーラが、自分をネタに
『ところで
――――未来の分岐は多数だ
『だが、カイルが
沈黙が流れた。
――――それで?
『俺と姫が立ち会う。俺達がストップを出したら、そこで中断だ』
――――何を目的とする?
『今、宇宙ではやっかいなことが起きている。星が二つに割れた。こちらの予測解析には限界がある。それを補完する先見がほしい』
ウールヴェは意外に静かに交渉にはいった。
『どこに星が落ちるか。それが知りたい』
ディム・トゥーラは、あらかじめ詳細に取り決めていたかのように、話を切り出した。あれだけ反発していた世界の番人に対して、個人の感情を封じ込め、接している。
その切り替えにカイルは感心してしまった。あの激情を抑え込んでいる。完璧な自己コントロールだった。
彼は観測ステーションの代表として、世界の番人との対話に臨んでいるのではないだろうか。カイルはそんなことを思った。
それに対して、世界の番人の応答はそっけなかった。
――――落ちる場所はまだ定まっていない
その態度にディム・トゥーラが
『そうだと思った。俺たちが、どちらをつぶすか迷っている状態だ。正しい未来予測だ』
――――定まらぬ先見など無意味だろう
『実はそうでもない。こちらも不測の事態で少しでも情報が欲しい。こちらの予測解析が間に合わないリスクがあるからだ』
ディム・トゥーラは淡々と語った。
『星の破片が落ちる可能性の場所の先見があれば、そこから逆算して
カイルは、はっと息をのんだ。
そんな発想はなかった。カイルが
『それらの集中点が、天上の俺たちが軌道を変えるべき変更ポイントだ』
――――どの未来がみたいのだ?
『一番重要なのは、氷河期を回避することだ』
――――もちろんそうだろう
『次に人死が少ない未来が欲しい。大災厄に対して協力してくれるエトゥールの民を優先で救済したい。メレ・エトゥール、それでよろしいか』
「ああ、感謝する」
『これは等価交換だ。俺と初代は天上でどちらかの星を砕く。それに対しての先見の映像をカイルに見せろ。彼が絵を描き、地上の関係者が場所を特定する』
――――未来は変わる
『だから、それを繰り返す。最善の未来を探す。ただし、
ディム・トゥーラは一気に
『カイル・リード達に何かあれば、天上の俺達はこの惑星から一切、手をひく。それを忘れるな』
「ディムっ!!」
カイルはその言葉に驚き、抗議をした。
『カイル、これはお前にも言っている。自分の安全を軽視するな。お前が死ねば、この惑星を救う義理など、俺には一切ない。俺はここから立ち去るだけだ』
ディム・トゥーラは冷酷に言い切った。
「そんな地上を見捨てるって言うの?!」
『そうなる』
――――姫以外にこの愚者を
世界の番人は、
「ちょっと!!」
――――お前は己の命を盾にこちらを利用した。
「
『ブーメランのことだ』
ディム・トゥーラが特殊単語を翻訳し、カイル以外の全員が世界の番人の言葉に、ぷっと笑いをもらした。
カイルは真っ赤になって、世界の番人に文句を言った。
「どうして、僕にだけ厳しいの?まるでディム・トゥーラみたいだ」
――――一緒にするな
『一緒にするな』
同時に反応があった。
――――お前が頑固で、愚かで、野生のウールヴェ並に
『上手い表現だ』
ディム・トゥーラが同意した。
世界の番人とディム・トゥーラが反発しているのか、意気投合しているのか、全くわからず、カイルは混乱した。
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