第27話 閑話:裏取引

とうもろこしコーンジャガイモポテト?」

 

 カイルの質問に、アードゥルは眉をひそめた。

 アードゥルの専門は植物であったが、飼料系の穀物をピンポイントで尋ねてくる理由がよくわからなかった。


「地上の作物と、僕たちの世界の作物の差はあるのかなあ?」

「動物が似ているように、作物も似ている。とうもろこしも、ジャガイモも存在はしている。国によって呼び名や形、味が多少違うが」

「そうなのか……」

 

 カイルは短いため息をついた。


「野生のウールヴェを本気で育てるのか?」


 エルネストがカイルに聞いた。


「あ、それとは全然、無関係。僕達の料理人に質問されただけ」


 カイルのこたえは、何か歯切れが悪かった。


とうもろこしコーンは、三大穀物の一つだから、確かに人間の食糧や家畜の飼料に適しているが?」


 アードゥルが解説をくわえる。


「ごめんなさい。そんな高尚こうしょうな目的じゃないです」

「は?」

「同僚達がポップコーンとポテトチップスが食べたいと言い出して騒動になったんだ」

「………………」

「………………」


 エルネストもアードゥルも困惑した。

 なぜ、ポップコーンとポテトチップスなのだろうか?確かに中央セントラルに行けば、ありふれた食べ物だが、地上には存在しない。


「…………なぜ、ポップコーンとポテトチップス?」

「動画を鑑賞するにあたって、どっちがいいかで意見が真っ二つに別れて論争になったんだ」

「論争になるネタか?」

「ちなみにお二人ならどちらを?」


「ポップコーン」

「ポテトチップス」


 見事に意見が食い違った。


「どちらの入手を優先すべきかと?」


「もちろんポップコーンだ」

「もちろんポテトチップスだろう」


 これは永遠の命題なんだろうか?カイルは遠い目をした。動画鑑賞をしたことのないカイルには理解できないこだわりの領域だった。

 一方、答えた二人もなぜ論争に発展したか理解した。


「……双方とも、とうもろこしとジャガイモが確かに原料だ。作ればいいだろう。地上に、似た植物は存在する」

「レシピを手に入れて、どっちも作ったんだけど、なぜか美味しくないんだ。何が原因だろう?」

「………………」

「………………」

「エルネスト、これに既視感を覚えるのは俺だけか?」

「いや、大丈夫だ、私もだ」


 二人の言葉に、カイルは怯んだ。やはりふざけている相談だっただろうか。


「ご、ごめんなさい」

「あ、いや、君のことではない」

「はい?」

「大昔に、酒のつまみとして、栽培要求されたことを思い出した」


 ぼそりとアードゥルが言う。


「………………はい?」

中央セントラルに行って買ってこいと、最後は君がきれたことを覚えている」


 エルネストがアードゥルに向かって言った。


「切れもするだろう。酒のつまみの自給自足で、研究費と時間を消化するなど――だいたい供給したらだんだん要求がエスカレートしたんだぞ」

「あの~~もしもし?」


 カイルは会話の内容が見えずに、尋ねた。


「何の話?」

「以前、酒のために穀物栽培をやらされた話をしただろう?」

「うん」

「その第二弾は、酒のつまみだった」

「………………」

「………………」

「………………」

「元凶はリード――じゃなくて……ロニオスと所長?」


「「そう」」


 カイルは、アードゥルとエルネストに同情した。


「で、お前たちは調理に失敗したのか?」

「うん、レシピ通りに作ったんだけど」

「種類が違う」

「はい?」

「ポップコーン用とうもろこしは爆裂種だ。乾燥させた実を加熱して破裂して食べる。作り方までは知らない」

「普通のトウモロコシじゃないと?」

「そうだ」

「じゃがいもは?」

「品種によってグルコース含量が違う。中央だと野生種で150種類以上あるが、地上はそこまでではない。紙をよこせ」


 アードゥルはカイルからメモ代わりの紙をもらうと、地上の市場で流通しているいくつかの種類をかいた。


「調理方法は知らないが、昔に栽培した品種だ」

「ありがとう!美味くできたらお裾分けするよ。それともコーヒー豆がいい?」

「コーヒー豆?」

「観測ステーションから美味しいコーヒー豆を取り寄せる予定なんだ」


 アードゥルとエルネストの目が光った。コーヒー豆だけは地上に存在していなかった。帰還する意志はないが、報酬は要求していいだろう。


「コーヒー豆をよこせ。トウモロコシとジャガイモを市場で入手したら、材料として増殖させてやるぞ」

「取引成立だね」



 カイルとアードゥルは、初めて固い握手をかわした。

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