第25話 閑話:散歩に行こう③

『だいたいメレ・エトゥールと対話がしたいと言い出したのは、君だ。私は仮の素体そたいを提供したにすぎない。あの時、君の希望を叶える手段が他にあったかね?』


「うっ……」


『その後に訓練をしたいと言い出したのも君だ』


 作業を続けながら、ウールヴェは淡々と指摘した。


『アードゥル達との対話にも同行を申し出たのは君だ。違ったかね?』


「いや、違わないが――待ってくれ、訓練の時になんで説明がなかったんだ?」


『なぜ説明が必要なのかね?』


 またもや予想外の切り返しに、ディム・トゥーラは軽く口をあけた。


『しかもどう説明が欲しかったんだね?』


「同調酔いの――その程度が――」


『説明して訓練を中断するべきだったと?』


「そうは言わないが、あんな苦痛を伴わなくても――」


『ぬるま湯より氷点下の水に突き落とした方が、必死に生存の道を模索するだろう?』


「いや、普通死ぬだろうっ!!」


『君は生きている。問題はない』


「問題は大ありだっ!」


『君は我儘わがままだなぁ。カイルのために早く同調をマスターしたかったんじゃないのかね?』


「それは――」


『だいたい私が極悪非道だとも宣言していたはずなのに、責められるのはせない。必要なのは今ある結果だ。そうではないか?私は君が求めた最短の同調を学ぶ道を示しただけだ』


「――!この古狸ふるだぬきめっ!」


古狸ふるだぬきはエドであって、私は狐派きつねはだと何度言わせるんだね』


 ディム・トゥーラが報復ほうふくのためにとっさに手をのばした端末には、ロックが掛かっていた。


「?!」


『悪いが、酒は守らせてもらう』


 狼に似たウールヴェの姿をした古狐ふるぎつね用意周到よういしゅうとうだった。








「僕が思うに、初代はみんな癖がありすぎるんだよね」


『……』


「アードゥルもエルネストも癖があるし?」


『……』


「その彼らの上司だもん。僕達が勝つためには500年はかかるんじゃないかな?」


『……』


 西の地の森の中で、カイルは絵を描きながら、再びウールヴェに同調してやってきたディム・トゥーラの愚痴ぐちに似た顛末てんまつの報告に耳を傾けていた。話を聞き終えたカイルの感想は、「曲者くせものだから仕方ない」だった。


 ディム・トゥーラは虎の姿のまま、地面に転がりふて寝をしていた。師匠のリードにやりこめられたことで、彼のプライドはずたずたらしい。

 

 カイルは木の枝にいた小動物の素描デッサンを、ディムの前でチラつかせたが、彼の反応は薄かった。相当、やさぐれている――カイルはそう判断した。


 カイルは今度は、ふて寝している虎のウールヴェのデッサンをはじめた。複数ある尻尾は、同調者のイラつきを示すかのように、地面を鞭のように叩いていた。


「僕は、ディムが同調をマスターしてくれて、助かっているから、リードのことを責められないなあ。こんな風に現実世界で交流できることが嬉しくてたまらないよ。やっぱり対面して会話できるのは最高だね」


 カイルの言葉に、ウールヴェは片目をあけた。ふて寝をしているようで、ちゃんと耳を傾けている。カイルはディム・トゥーラの反応に笑いを漏らした。


「こうして地上の散歩に付き合うから、機嫌を直してよ。いくらでも動物の絵を描いてあげるからさ」





 絵師をゲットしたウールヴェは、たちまち機嫌がよくなり、復活した。

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