第12話 幼体②
ハーレイから渡された
純白の毛糸玉のようなウールヴェは、
滞在先であるハーレイの家にカイルは戻ると、厳重に自分に
間違って自分を主人として選択されては、本末転倒なので、その点は特に気を使った。
ハーレイとイーレが興味津々でその背後から、カイルの選別を見守る。
「家畜として飼うことは?」
カイルの質問にハーレイは笑った。
「誰が飼うんだ?脱走して野生化した場合の責任はどうなる?」
「毛が柔らかくて高級そうだけど……」
「服一枚作るのに何匹いると思う?誰も試したことないぞ」
「幼体だからでしょ。
「狩で血だらけだ」
「野生のウールヴェの毛は、ここまで柔らかくないわよ」
イーレの指摘に、カイルは少し離れたところに座る自分のウールヴェを見た。
つられてハーレイとイーレもトゥーラを見た。
「……高級そうだね」
「……一匹でかなりの量がとれそうだ」
「……純白で光沢もあるわね」
言葉を理解できるトゥーラは、身の危険を感じて、
「動物繊維については、後回しにしよう。ディム・トゥーラ専用の幼体の方が優先度は高い」
トゥーラは危機を回避したことに、ほっとしたようだった。
イーレは不思議そうにたずねた。
「この中に、ディム・トゥーラ用のウールヴェはいるの?」
「いる――のは、わかるけど、どれかまではわからないや」
「全部、彼の元に送ってみる?」
「それで、僕は再会した時に『ふざけんな』って、
「ずいぶん確率の高そうな未来描写だわ」
「ディムに関しては、行動予測の先見ぐらいはできるよ」
「だったら、ディム・トゥーラの未来の
「簡単に言うなあ……」
カイルはイーレの無茶な要求に吐息をもらした。
カイルにはウールヴェの相性の定義がわからなかった。そもそも相性とはなんだろう。
カイルにしてみれば、ディム・トゥーラの
ウールヴェにそこまで求めるのは無理だ。
ウールヴェのトゥーラは
そのディム・トゥーラにふさわしいウールヴェとは、どんなものだろうか?
今回のウールヴェの選択は条件が多いかもしれない。単なる使役ではなく、同調する
カイルには、毛玉幼体のどれがそうなのか、さっぱりわからなかった。
だが、ディム・トゥーラの好みはわかる。
対等に議論できる知的さは必須だった。そういう意味では、初代であるリードは、おそらくディムと相性がいいだろう。
一を言えば、十を知る――そんな都合のいいウールヴェがいるだろうか?
だいたいディム・トゥーラのウールヴェが育って、動物の形態を取る姿を想像した時に、なぜか一撃必殺の
これはカイルがディム・トゥーラの言葉の一撃で致命傷を負っているからに違いない。
――怒ると
カイルは世界の番人との初めて対峙した時のディム・トゥーラを思い出して身震いをした。
あの激怒したディム・トゥーラは酷かった。だがあの怒りは、カイルとリルに代わっての怒りでもあったのだ。
普段のディム・トゥーラの
カイルはそれが可能か考えこんだ。
ディム・トゥーラは普段なら怖くない。
カイルは思い出して、むっとした。
規格外を褒め言葉だと主張するディム・トゥーラは、カイルに対してまっとうな言葉で誉めてくれたことは皆無だった。しかも、カイルが指摘するまでその事実に気づいてなかった。
ディム・トゥーラはカイルの自信のなさに言及したが、影の
――いかんいかん 今はディム・トゥーラの幼体を探すことに集中しなくては
カイルはよく理解しているディム・トゥーラの波動を
イーレは、はっと息を飲んだ。
目の前で床に座り
鋭い茶色の眼を持った茶髪の男は、間違いなくディム・トゥーラだった。
なぜ、ディム・トゥーラがここに?!
イーレは驚き混乱したが、これがカイルの能力であることを思い出した。
カイルは今、ディム・トゥーラの波動を真似ているのだ。
ハーレイも異変を悟っていた。
「誰だ、これは?」
「しっ!静かに!これはカイルの支援追跡者の姿よ」
「カイルはどこに行った?!」
「ずっと変わらずそこにいるわよ」
ハーレイはカイルの真横にまわり、目をすがめてカイルともう一人の見知らぬ男が、完璧に溶け合って存在することを観察した。
「カイルが他人の波動を再現しているだけ」
「精霊獣に
「そうね、私もびっくりよ」
茶髪の男が手をウールヴェの
「うん、こいつだ」
次の瞬間には、そこにカイル・リードが変わらずにいた。
見分けた一匹のウールヴェを戦利品のように
「見て見て!ディム・トゥーラのウールヴェだよ。ほら、瞳の色も茶色に変わっている。間違いないっ!――どうしたの?」
カイルは自慢しようとして、二人の
「気にしないで、カイル。私達は貴方が途方もない規格外だって、実感しただけよ」
イーレが吐息まじりに感想を述べた。
カイルはハーレイに
毛刈り用のナイフである。
「トゥーラ、じっとしていてね。これは命令だよ」
ウールヴェは涙目だった。今までの友情を
――ひどいよ かいる!
「毛の分析は必要だし、加工できるか、ハーレイのところで試してもらうには、毛が一定量いるんだよ」
――僕じゃ なくても いいじゃん!
「他のウールヴェじゃ気の毒だろう?すぐ、
カイルは
――いーれ! 助けて!
「ごめんなさいね。私も興味あるの」
イーレはウールヴェの
――うわああああん
「トゥーラ知っている?超古代には、ウールドッグって種類の犬がいて、犬の毛で毛布とかを作っていたんだってさ」
――犬じゃなあああい
「うん、だから分析でそれを証明しないとね?」
カイルは鼻歌混じりでトゥーラの
「意外に容赦ないな?」
「カイルも間違いなく研究馬鹿なのよ」
イーレは真顔で評した。
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