第10話 帰還⑩

 トゥーラの意外な提案にカイルはあっけにとられた。


「だって、お前ヤキモチを焼くじゃないか」


――やかないよ


「……精霊鷹を使役したら?」


――やく


「……メレ・エトゥールの白豹のウールヴェを使役したら?」


――めちゃくちゃ やく


「やいているじゃないか」


――かいる の 使役する うーるゔぇには やかない


「言ってることが矛盾むじゅんしている」


 シルビアは考えこんでいた。


「条件付けが違うようです」

「なんだって?」

「トゥーラ、貴方はカイルが今から使役するために選ぶウールヴェには嫉妬しない、そう言ってますか?」


――そう


「はあ?」


カイルは意味がわからず、怪訝けげんそうな顔をした。


「精霊鷹と今から使役するために選ぶウールヴェの違いがわからない」


――今から 選ぶ子 僕を 超えられない


――僕 一番


――別に 増えても かまわない


「……」

「……」

「精霊鷹は?」


――らいばる


「メレ・エトゥールのリーヴァは?」


――気品とか 勝てないから やく


「……これはカイルに似ましたね。まるでファーレンシア様に対する独占欲丸出しの貴方みたいです」

「ちょっと!一緒にしないでっ!」


 カイルが赤面しながら、シルビアの暴言に抗議をした。


「でもそっくりですよ?」

「絶対に違うっ!」

「トゥーラ、ちなみにディム・トゥーラは?」


――らいばる 永遠のらいばる 蹴落けおとす目標 僕負けない 絶対 負けない


 鼻息荒く、ウールヴェは宣言をする。


蹴落けおとすということは、今は負けていることを認めるのですか?」


――負けてない! あっちが 優位だけど 僕 負けてないっ!


「……」

「……」

「ディム・トゥーラが聞いたら鼻で笑いそうです」

「ウールヴェ嫌いだから、相手にしないよ」

「それは名付けのせいです。動物学者がこんな摩訶不思議な生物を嫌うはずないでしょう」

「……」

「……」

「シルビア」

「はい」

「同じこと考えてる?」

「多分」

「よし、打診してみよう」

「口説き落とせるんですか?」

「ディムは意外に動物ネタに弱いんだよ」





『俺にウールヴェを持てだと?』

『うん』

『喧嘩を売ってるのか?』


 ディム・トゥーラの思念はやや物騒だったが、それは想定の範囲内だった。


『ディムが嫌うのは、僕の名付けが理由だろう?リードみたいに頭がいいウールヴェは嫌いじゃないだろう?』

『…………いや、あれはあれでやっかいだ』




『失敬な』

「事実でしょう」




『それに俺には、リードがいる』

『リードは中身が初代じゃないか。僕が言っているのは、幼体から育てるウールヴェのことだよ。ディム・トゥーラが使役するウールヴェだ』

『……メリットは?』

『今後、リードが忙しくなっても、使役できる存在を入手できること』

『……デメリットは?』

『地上でディム・トゥーラが直接選ぶわけではないから、相性は未知数でどんな風に育つかわからない』

『ふむ』

『サービス項目なら山ほどあげられるけど』

『なんだって』

『未知の生物を身近に観測できる。気に入れば多数使役できる。この近距離なら地上に派遣できる。あと、ディムが同調をマスターできたなら――』

『できたなら?』

『ウールヴェに同調して、地上の動物を身近に観測できるよ』

『……………………』


――陥落かんらくしたな。

 カイルは反応に、手ごたえを感じて少し笑いを堪えた。


『……お前、説得の仕方がリードそっくりだ』

『僕だって、ディムにピンポイント爆撃ができるんだよ』

『爆撃地点が的確すぎるだろう』

『まかせてよ』


 カイルの思念は得意気だった。


『その件はお前にまかせる。相性が悪ければ返品だ』

『了解』



 シルビアは交渉結果に感心してみせた。


「本当にピンポイント爆撃でしたね」

「ふふふ、まかせてよ」

「次は貴方とディム・トゥーラのウールヴェの調達ですね」

「そうなるね」


 一方、ウールヴェのトゥーラは複雑な顔をしていた。


――それって でぃむ・とぅーらが うーるゔぇに なって 地上にも くるかもしれないってこと?


「それができたら、理想的だね」


 トゥーラは落胆らくたんした。


――らいばるに 酒を 送っちゃった……


「いや、それを言うなら、塩だろう」


――酒って りーどが 言ってた……





 初代の酒好きは、大問題だった。

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