第22話 閑話:ウールヴェ大作戦

 カイルは談話室の入口で、呆然と立ち尽くした。

 

 セオディア・メレ・エトゥールがエトゥールに滞在している賢者達が話し合うためにと用意してくれた談話室は広かった。

 クトリが引きこもり用に機材を持ち込んでいたが、まだ余裕があった。

 出入りできる人物は、ミナリオやアッシュ、アイリなどの特別な専属護衛だけだったし、メレ・アイフェスが好き勝手にできるミニ拠点だと言えた。



 そこにおびただしい数のウールヴェがいた。



 まるで動物の飼育室だった。シルビアが端末を持って、何かをしていた。


「シルビア……これはいったい」

「ウールヴェです」

「見ればわかるけど」

「メレ・エトゥールがどのくらいの数まで使役できるかの限界実験です」

「限界――」


 カイルは談話室をあらためて見渡した。

 大型の白豹のようなウールヴェが代表的に数匹、精霊鷹のような鳥型が数羽――カイルは途中で把握はあくをあきらめた。

 先日、そんなことをメレ・エトゥールが言っていたことをカイルは思い出した。



「これが例のメレ・エトゥールが使役したウールヴェなの?!」

「はい、そうです」

「いったい何匹――」

「36匹で止めてもらっています」

?」

「追跡端末とカメラが足りなくなりました」


 シルビアが吐息をついた。


「単純な使役数限界実験だったのですが――少し明後日あさっての方向に曲がりました」

「少し?」

「少しです。あくまでも少しです」


 シルビアは言い張ったが、視線を意識的に逸らしていた。

 カイルは頭を抱えた。何から突っ込めばいいのだろうか。


「追跡端末とは?」

「ウールヴェがどこにいるか、把握するために必要でした」

「カメラとは?」

「状況を記録するためにつけました」

「どうやって?」

「リーヴァ」


 シルビアは一頭の白豹を呼んだ。

 呼ばれたウールヴェはすぐにやってきた。


「リーヴァです。メレ・エトゥールのウールヴェを統率とうそつしてもらっている代表のウールヴェです」

「はい?」


 今、とんでもないことを言われた気がする。

 他のウールヴェを統率とうそつできるウールヴェが存在するのだろうか。

 シルビアはウールヴェの首についているエトゥールの紋章に模した首飾りを示した。


「ここにカメラをつけました」


 首飾りの宝石に混じって、カイル達にしかわからないマイクロカメラがそこに存在していた。


「何やってるの?!!!」

「実験記録は必要でしょう?」

「このウールヴェ達は、地方領主達に使いとして送ったでしょ?!」

「そうですね。メレ・エトゥールの書に対しての赤裸々せきららな反応が、記録されていました」

「偶然じゃないでしょ?!」

「偶然です。あくまでも偶然です」


 シルビアはシラを切った。

 カイルは部屋にいたクトリを振り返った。


「クトリ!何、協力してるの?!」

「え?ウールヴェの生態せいたいはわかってないから、記録は必要じゃないですか」

「誰のアイデアなの?!」

「メレ・エトゥールです」

「――」


 やられた。

 メレ・エトゥールは諜報スパイ部隊を作り出してしまった。しかもクトリを抱き込んでいる。相変わらずの狡猾、腹黒ぶりだった。


 シルビアがカメラ画像を回収すると、心得たように一匹ずつ去っていく。完璧に統率されている第一兵団を彷彿ほうふつさせた。

 最後にリーヴァという名のウールヴェが残り、シルビアから何やら指示を受けとっていた。


 それから戸口に優雅に向かい、カイルの目の前で丁寧に頭を下げると去っていった。

 品格というものが存在している白豹だった。


「あれ……本当にウールヴェ?」

「リーヴァは優秀ですよ。私をエルネストの隠れ家まで連れて、飛んでくれたりもします」

「そもそもなんで、シルビアが世話を?」

「あの子達は世話いらずです。私が世話をすることを条件にメレ・エトゥールが実験協力してくれているのです」



 セオディア・メレ・エトゥールが諜報活動目的以外に本格的に外堀を埋める行為にでていることをカイルは感じとった。

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