第5話 狂飆①
雲ひとつない晴れわたった天候にもかかわらず、唐突に
咲き乱れる花々の一箇所のみの不可解な現象だった。
空気の流れがそこだけおかしかった。
「
「あそこだけ、急激に冷えて水蒸気が
「よくある気象現象?」
「まさか」
エルネストは霧から目を離さず、カイルに解説した。
「あんな部分的な霧など見たことがない」
白い霧のヴェールが一瞬だけ、虹色に輝いた。
同時に四つ足の獣の
「来た……」
「面白い」
エルネストが感想をつぶやく。
「
「ウールヴェなら、なんら不思議はないが、問題は移動距離だ。カイル・リードの話が本当なら、航宙のシャトルから飛んできたことになる。光速移動の場所から、正確に地上に着地できる方が
アードゥルが意見を述べた。
「本当だってば」
カイルは、未だ信じてもらえないことに、ややむくれた。
だが、安堵もした。
移動状況を論じるぐらいなら、
突風が霧と満開の花びらを一気に流した。
そこには、カイルのウールヴェより一回り以上大きい純白の毛並みのウールヴェがいた。
「ずいぶん、もったいぶった登場の仕方だ」
アードゥルが
双方間の距離は100メートル以上あったが、視認はできた。
「……アルドヴァート」
ウールヴェの姿を確認したエルネストがつぶやいた。
「アルドヴァート?」
「巫女のウールヴェだ。見覚えがある」
「初代時代に?巫女って、もしかして初代エトゥール王の伴侶になった女性?」
「そう」
「それがリードの本当の名前?」
「ああ、そうだ。あれはアルドヴァートだ」
そうか、やはり初代と縁のあったウールヴェだったのか。カイルはどこか納得した。
アードゥルは無言のまま、目をすがめて問題のウールヴェを見つめていた。
ウールヴェは警戒するかのようにゆっくりと近づいてくる。カイルとの初対面だったころの草原を駆ける軽快さは見られなかった。
「リード、大丈夫だ。彼がエルネストとアードゥルだ」
カイルは声をはりあげて呼びかけたが、リードは歩調を変えなかった。
何かを警戒しているのか?それとも長距離移動の
カイルは念のため、思念の
懸念されるアードゥルの圧の上昇はなかった。
「?!」
カイルは気配の変化に、思わずアードゥルを振り返った。
アードゥルは目を見開いて近づいてくるウールヴェを
「アードゥル?」
「………………違う」
「え?」
「え?」
カイルと同様にエルネストも、その言葉を理解できず
「何が違うの?」
「…………………あれは、アルドヴァートじゃない。…………中身が違う」
「なんだって?」
「ロニオス!!!」
叫ぶと同時にアードゥルの姿がかき消え、名前を叫ばれ驚いて立ち止まったウールヴェの前に現れた。
それも一瞬のこと。
すぐにアードゥルとウールヴェの姿は
それは止める間もない出来事だった。
目の前で展開された状況を理解するのにカイルは数秒を要した。
慌てて彼等がいた場所に駆け寄ったが、転移の衝撃でその部分だけ、醜く地面が
えええええええ?!!
「ちょ、ちょっと、どういうこと?!」
文句を言うべき相手が不在で、カイルは混乱して、エルネストに詰め寄った。これはひどい裏切りだった。
「
だが、エルネストもショック状態であることにカイルは気づいた。
エルネストは呆然と立ちつくしていた。アードゥルが消えたあたりをまだ見つめていた。
「……そんな馬鹿な……」
「エルネスト!」
「……本当にロニオスなのか……?……いや、なぜ、ウールヴェなんだ?……なぜだ?……あれはアルドヴァートの姿だろう……なぜアルドヴァートの姿で……ありえない……いったい今の今まで……」
「エルネスト!!アードゥルはどこに飛んだんだっ?!」
カイルはエルネストの腕をつかむと強く揺さぶり、怒鳴った。エルネストは初めてカイルの存在を思い出したようだった。
「わ、わからない」
「そんなことないだろう!どこなんだっ?!」
「本当にわからない。だが移動した理由はわかる。
「――」
カイルは、息を飲み、
女性達がお茶を中断し、テーブルのそばで立ち上がっているのが見えた。異常事態が起きたことは、理解しているらしい。
カイルは空を見上げた。急激に天候は崩れている。湧き上がった雲が一方向に流れていた。
「本当に心あたりはないの?計画の一環ではなく?最初からそのつもりだったわけじゃないんだね?」
「ない。誓ってもいい」
「トゥーラ、リードの場所は?」
カイルは自分のウールヴェを見た。
――わかんない
「アードゥルも?」
――うん
アードゥルの能力値からいえば、ウールヴェの探索を
「世界の番人は?」
――黙っているよ
少しぐらい協力してくれてもいいだろう?!
カイルは心の中で
カイルは絶望的な手詰まり感を味わった。
「……エルネスト、『ロニオス』は初代の一人?」
「そうだ」
「でも姿は、『アルドヴァート』という巫女のウールヴェ?」
「だと思う」
「アードゥルは
「そうだ。多分ミオラスが
カイルはもう一度、女性達のいる方向を見た。
歌姫は祈るように両手の指を組んでいる。多分、彼女はアードゥルの気配が消えたことを悟っている。
「僕にはよくわからない。イーレを見たときのアードゥルは、
「私だって混乱しているんだ!アードゥルだってそうだろう!500年ぶりだぞ?!あれだけ、我々が探して、見つからず、いったい、今まで、どこで、何を――」
エルネストは息をついた。
「……いや、君に言っても仕方ない」
「ロニオスって何者?」
「アードゥルに能力
「――」
カイルも混乱した。
リードが初代にかかわるウールヴェだと思っていたが、初代そのものというのは、想像していなかった。
「――えっ、待って、なんでウールヴェの姿なの?」
「それは私が聞きたい。アードゥルが混乱するのは、当たり前だ」
「しかもアードゥルの
「『元』だ。それは問題ではない。正式な手続きを経て、役目を終えている。言っただろう、アードゥルの制御は
カイルは一気にアードゥルに同情をした。
例えるならディム・トゥーラがある日、
「協力して」
「何を?」
「決まっているじゃないか。追いかけるんだ」
『すまない、ディム・トゥーラ』
『カイルは?』
『離れた場所にいる』
『影響は?』
『問題ない』
『ならいい。で、どこにいる?』
『
ディム・トゥーラは、リードの癖を
ディム・トゥーラはカイルを真似ることにした。つまり追求の手を緩めなかった。
『
『………………上空一万メートルぐらいかな』
『はあ?!』
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