第8話 交錯⑧

「イーレの原体オリジナルが、500年前にここに降下して、残した移動装置ポータルをこの惑星ほしの誰かが使っているという可能性があるってことだろう?」

「サイラスの見立て通りに型が古いなら、そうだと思う」

「やっかいだな」


 サイラスは考え込んだ。


「イーレの原体オリジナルだけでもやっかいなのに、移動装置ポータルについても調査かぁ。大災厄、イーレの原体オリジナル移動装置ポータル――カイル、優先順位は?」

「大災厄かな」

「じゃあ、あとの二つは保留で」

「でも、あとの二つも大災厄に関係しているかもしれない。少なくとも中央セントラルはここを探索していたことを隠していた」


 カイルはつぶやいた。


「世界の番人は、ここでイーレの原体オリジナルが死んだ事実を教えたかったのかもしれない。僕達が何も知らないことにようやく気づいたのかな?」

「どういう意味だ?」

「世界の番人の領域で、が言ったんだ。『大災厄を知っていながら止めようとしない』――でも、僕もディムも大災厄なんて知らなかった。知っているのは誰?」

中央セントラルか」

「あとはイーレの原体オリジナルとその初期探索メンバー」

「イーレに原体の記憶があればわかったかもしれないなぁ。だが、彼女にその話は絶対にやめてくれ」

「わかってる」


 カイルは頷いた。傷をこじ開けるようなものだった。


原体オリジナルの名前がでただけでも、あの状態だったんだから」

原体オリジナルが死亡したなら、それが原因で探査計画プロジェクトは中止になった可能性はあると思うぞ」

「あと初期メンバーは文明に深く関わっているよね?西の民の伝承に残るぐらいなら」

「確かに」

「文明と直接接触禁止の大原則は、どこに行ったんだろう」


 サイラスはあきれたようにカイルを見つめた。


「何?」

「直接接触をガンガンになさっていらっしゃる方のセリフとは思えませんなぁ」


 サイラスの皮肉な響きのある言葉にカイルは真っ赤になった。


「僕の場合は不可抗力だろ!?」

「和議への協力までは干渉しすぎだろ?それも不可抗力だと?おっと、びっくりだ」

「うっ……」

「まあ、メレ・エトゥールが狡猾で利用されたのは、わかるけどさ? よく地上にここまで肩入れするよな」

「ううっ……」

「舞踏会で姫様と踊って鼻の下のばしてるし順応しすぎだろ」

「鼻の下なんか伸ばして――ん?」


 襲撃時に飛びだしてきたサイラスは、そういえばどこにいたのだろうか?


「まさか……あの時、ずっと見てたの?」

「当たり前だ。最初から騒動が起きるまで、近衛兵このえへいに紛れて見ていたさ。視覚リンクした録画は観測ステーションにあるぞ」

「〜〜〜っ!!!」


 カイルは頭を抱えて、膝をついた。復讐材料をさらに得たディム・トゥーラの高笑いが聞こえたような気がした。


「いや、今更でしょ?」


 サイラスは見下ろして追い討ちをかけた。


「姫様を口説くなら、ちゃんとアフター・ケアまで考えておかないと」

「口説いてないっ!」

「ほー」


 サイラスは意地悪く笑った。


「じゃあ、俺が口説いてもいいのかなぁ?」


 とんでもない話だった。来るものは拒まず、去る者は追わず主義のサイラスの女性遍歴の酷さは、研究都市では有名だった。カイルは慌てた。


「駄目だっ!」


 その反応にプッとサイラスが吹き出す。


「面白い……シルビアの言った通りだ」

「……シルビアは何を言ったの?」

「内緒」


 サイラスはゲラゲラ笑い出し、カイルはシルビアが何を言ったのか気になって仕方がなかったが、サイラスは口を割らなかった。





 遺構の周辺を二人で探索したが、入口らしきものは見当たらなかった。


「完全に埋没した遺構か?それらしい痕跡もないな」

「う〜ん、なんか納得がいかない」


 カイルは考え込んだ。


「何かを見落としている」

「――カイル、同調能力は使えるか?」


 サイラスは不意に尋ねた。


「使えるけど?」

「空から見てみろ。埋没している遺構の影響で植生が変わる。古典的な調査方法だ」

「そんなのあるの?」

「あるある。作物痕や土壌痕で遺構の規模や分布を判断できるな」

「ああ、鳥と同調すれば上から――」


 言いかけて、カイルは凍り付いた。

 この惑星での鳥の同調といえば、だ。心的外傷トラウマに近いだ。しかも、この会話は間違いなく世界の番人に聞かれている。


――ヤバい。来る。


 羽音がして、肩に赤い精霊鷹がとまったとき、カイルは声にならない悲鳴をあげた。

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