第13話 エピローグ
「本日は、セオディア・メレ・エトゥールとの
凛とした声で
イーレがエトゥールの
先触れの精霊獣については、ざわめきが起こった。
若長の精霊獣ではなかったことを残念がるものと、エトゥールの
トゥーラはカイルの隣におとなしく待機していた。ただ純白の毛並みは、金色のオーラに包まれ輝いてていた。
『やりすぎだ』
――はったり 必要 めれ・えとぅーる 言ってた
どういう入れ知恵だ。カイルは、セオディア・メレ・エトゥールの裏工作に呆れた。
ファーレンシアはメレ・エトゥールが和議を重要視していることを語り、まずは友好の証として贈り物を用意したと、彼女は大きな箱を三つほど、運ばせた。
一つ目の箱が開けられたとき、どよめきがおこった。
中身は精錬された金属の延べ棒だった。
「精製した
高級な剣や槍などの素材である。それを敵対していた西の民に与えるなど、今までありえないことだった。これ以上の信頼の証はないだろう。
場はエトゥールの和議の使者に好意的な空気にがらりと変わった。
ハーレイはメレ・エトゥールの意図を正確にかぎとり、隣に立つカイルにぼそりとつぶやいた。
「……メレ・エトゥールは食えない
「……僕も常々そう思っている」
二つ目の箱は「薬」の類で、おそらく事件で体調を崩した
三つ目の箱は、高級な皮や布の類で、全てを合わせると破格の値段であった。それはエトゥールで起きたことの賠償の意味もあるのだろう。
これだけのものをセオディア・メレ・エトゥールはいつの間に用意したのだろうか。
「エトゥールの
シルビアが深く一礼をする。女性の治癒師ということで、再びざわめきがおこる。男尊女卑が強い西の民の中ではありえない地位なのだろう。
和議の内容がハーレイによって語られる。不戦の誓い、領土不可侵、交易、援助、同盟の名をもとに共通の敵の出現時の参戦、両国内での領民の安全保障が盛り込まれていた。
双方の言葉で書かれた2枚の羊皮紙にファーレンシア・エル・エトゥールと若長ハーレイが署名する。ハーレイは署名された羊皮紙を長に差し出した。
「ここに和議が成立したことを宣言する」
老齢の西の民の長が告げた。
ハーレイはわずか10日で起こった変化に驚いていた。ナーヤの予言した通り、あの子供の姿をした賢者は、風を連れてきた。強烈な変化の風だ。いったい彼女の前で二つに分かれている道に、自分はどう関わるのだろうか?
大天幕の中で行われている祝宴をカイルはそっと抜けた。大天幕の外に、何かの気配を感じたからだ。
大天幕の入口の柱上に精霊鷹が止まっていた。気配は精霊鷹のものだったらしい。
――カイル・リード。アストライアーが目覚めたぞ
世界の番人が初めて名を呼んだ。しかも直接語りかけてきた。カイルはその変化に驚いた。長年不和だったエトゥールと西の民の和議に何か思うところがあったのか。それともイーレが特別だからか?
「ありがとう」
礼儀正しく、精霊鷹にお礼をいい、カイルはハーレイの家に駆け出した。
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