からくりくんと「おはな」

水木レナ

からくりくんと「おはな」

 ぼくはからくりくん。

 胸の名札に書いてある。

 ご主人はぼくを家政夫ロボットとして造った。

 無駄口をたたかないようにと、しゃべる機能はついてない。

 けどぼくは、ご主人に嫌われて廃棄されることになっちゃった。

 音の出なくなったデッキや、吸い込みが悪くなった掃除機を粗大ごみ置き場から戻してきただけなのに。 

 だって同じ機械がひどい目に遭うのが、かなしくてかなしくて。

 そんなこんなで、ご主人はぼくを小学校の裏のかたすみに放置したんだ。

 ご主人に帰ってくるなと命令されたら、もうどうにもならなかった。

 風や空の青さに触れることができるから、いいんだけどね。

 あるとき、ミホちゃんという女の子がきて……そこになにかをまいたんだ。

「か・ら・く・り・く・ん? でっかいお人形」

 手をふったら、驚いていた。

 まあ、初めましての反応はこんなものかな。

 ミホちゃんの名札には三年二組、とあった。

 ちっちゃな立て札に「おはな」と書いていた。

 ミホちゃんがお水をかけてあげると、「おはな」たちは双葉をだし、茎をのばし、どんどん大きく育っていった。

 ところが、そのミホちゃんがふっつりこなくなってしまった。

 ぼくはさみしくてね、ミホちゃんの見よう見まねで「おはな」にお水をあげたんだ。

「おはな」はつぼみをつけて、大きな花をさかせた。

 ミホちゃん、もうこないのかな……。

 この大輪の「おはな」、見にきてくれないのかな。

 そう思ったら、いてもいられなくなって、ぼくは「おはな」をおなかに保存して、ミホちゃんをさがしにでかけた。

 全機能の低下はまぬがれないけど、お料理用の嗅覚センサーを拡大して探したら、病院にたどり着いた。

 ミホちゃんは病気で、入院していたんだ。

 病室をのぞくと、ミホちゃんはベッドでしくしく泣いていた。

 どこがわるいのかなあ。

 そこまではわからない。

 ぼくは元気づけてあげたくて、ミホちゃんの病室にしのびこんだ。

 眠っているようだったから、おなかのなかの「おはな」を取り出して枕元に置いた。

 そのまま朝をむかえて、ミホちゃんの笑顔を見たとき、ぼくはほんとうによかったと心の底から思ったんだ。

 それからぼくは、ミホちゃんのお友達になって、小学校の裏にいる。

 元気になったミホちゃんと一緒に、「おはな」にお水をあげるのが日課だ。

 だけど、そんな日々も長くは続かなかった。

 ミホちゃんの「おはな」を見つけた上級生たちが、いたずらにきたんだ。

 ぼくは、戦ったよ! 

 高速で腕をふりまわして、おっぱらった。

 それでもダメなときは、「おはな」を抱えて隠した。

 だけど、ミホちゃんは「おはな」たちをあらしたのはぼくだって思ったらしい。

「だめだよ。からくりくん……」

 ふたりっきりの秘密だったから、仕方ない。

 信じてもらえなかったぼくはさびしくって、かなしくって、力が出なくなった。

 また上級生が来て蹴ったりたたいたりされても、戦えなかった。

 ごめんねミホちゃん、ぼくはもう、ダメだ。

 そう思っていた時、ミホちゃんが駆けてきて、デッキブラシで上級生に立ち向かっていった。

「からくりくん! どうしてこんなことに? からくりくんがいためつけられてるなんて! ぜんぜん知らなかったよ」

 ミホちゃん、泣かないで。

 ぼく「おはな」を守りたかったんだよ。

 そのためには、おなかの中に「おはな」を保存するしかなかったんだよ。

 おなかはぎゅうぎゅうのぱんぱんになってしまったから、バランスが悪くて立ち上がれなくなっちゃったけどね。 

 それからは「おはな」を花壇に植えかえて、みんなで育てることになったんだ!

 もう、だれにもあらしたりさせないぞ。

 心の中で、よかったね、と思っていたら、

「うん、よかった」

 すごいや! ぼくたち、おんなじことを考えていたよ!

                 -了-

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