第3話N/O=2

 学校は退屈だ。

 あの後朝食を頂いたわたしとしかりは、揃って登校するため家をでた。

 何だか妹に付き添われているようで気が引けるけど、こればかりは仕方ない。

 何せ、通っている学校が同じなのだ。

 このあたりではそこそこ有名な、勉強にも部活にも力を入れている中高一貫の進学校だ。

 その学校に在籍するわたしは、ただいま高校二年生。

 妹はこの春めでたくわたしと同じ学校に入学した、ピカピカの中学一年生というわけだ。

 下駄箱までしかりと一緒に行動し、そこからは学年もクラスも違うので別々に移動する。

 そのときしかりはいつものように、「お姉ちゃん、ちゃんと勉強するんだよ」と言い残し自分のクラスへ向かっていった。

 そして現在。

 そうした妹の忠告を全て無視するかたちで、わたしは窓の外の雲を見上げていた。

 板書はノートは、後で友達のものを写させてもらう。

 先生が教える授業そのものは、いまは便利な文明の利器、ボイスレコーダ-で録音中だ。

 そうして何のしがらみもないわたしは、暇を持て余しているというわけだ。

 いいなぁ雲は。自分の好きなところに行けて。

 などと思う訳など決してなく。

 風の吹くところにしか行けない哀れな雲に、共感を覚えながら。




 そうして如何にして雲を美味しく頂くかに思いを馳せていたところで、待望の放課後となった。

 そこに幼稚園からの付き合いであり親友でもある、ナッセこと成洗場なせるなせばなせるが声をかけてきた。

「いやー、長かったねー。永かったよー、シック。でもこれでようやく放課後。退屈は終了。そして自由な時間の始まりだ。もうあたしたちを止められるものは誰もいないぜってなもんで。ねえシック、今日どっか寄ってかない?」

 唐突に現れてテンションが最初からクライマックスだが、ナッセはこれが平常だ。

「いいよ、何処いこっか?」

 ナッセからの普通のお誘いに、わたしは二つ返事で了承する。

 わたしだって花の高校二年生。

 遊べるときには、遊びたいのだ。

「駅前のゲーセンとかどうよ? 何か、新しいゲームが入ったんだって」

「よし、そうしようそこにしよう」

「負けないかんね、シック」

「どうせわたしは手も足もでませんよ、ナッセ」

 ナッセは何の迷いもなく、わたしに向かってそう提案した。

 それに一瞬の躊躇もなく、わたしはナッセに同意する。

 そうしてわたしたちはきゃいきゃい騒ぎながら、女子高生ライフを満喫するため遊び場へと向かってくりだしていった。

 おっと、しかりに連絡を入れとかないと。

 家に帰って速攻お小言食らうのは嫌だからね。




 そこはさながら、光と音の洪水だった。

 あちらこちらでピカピカピロピロと、種々雑多な音と声が溢れていた。

 そこに心底楽しそうにナッセが足を踏み入れる。

「おー、久しぶりに来たけど、結構変わってるもんだね。どーれからやろっかなー」

 そんなナッセを見ているだけで、わたしは充分楽しかった。

「ねっ、ねっ。シックはどれがいいと思う?」

 わたしの背を押しながら、ナッセがわたしにそう問いかける。

「わたしに訊かれてもね。わたしこういうの上手く遊べないし」

「そんなの気にしなくていいんだよ。要はフィーリングだよ、フィーリング!」

 そうナッセが言うので辺りを見回す。

 と言っても、は最初からわたしの視界に入っていた。

 店の中央に設置された、大きなドーム型の筐体。

 そこには自動車の運転席のようなシートが放射状に取り付けられ、ひとが座るのを待っているようだ。

 そのうちの半分以上は使用中なのか、筐体の内部にすっぽりと収まっているようだった。

「ほほう、あれに目を付けるとは流石にお目が高いですなぁ。あれこそ本日の目玉。いま流行りの最新のVRゲームだよ」

「VR? VRってあの仮想現実を体験出来るっていうやあれ?」

「そうそうそれそれ。いますっごく流行ってるんだよ、あのゲーム。何でも、男子から意外と女子まで結構な大人気らしいよ」

「へー、そうなんだ」

 そのとき、わたしの心がトクンと疼いた。

「あれ、わたしにも出来るかな?」

「出来ると思うよ。何でも、遣うのは頭だけらしいからね」

「成程、それはあつられたようにわたし向きだ」

「だね。それじゃあ対戦、してみよっか」

「よしきた。これならナッセが相手でも手も足もだせそうだしね」

「お、言ったな-。じゃあちょっと待ってて、受付してくれるから」

 そう言うとナッセはわたしのから手を離し、受付へと向かっていった。

 VR。仮想現実。

 現実とは違う、もうひとつの世界。

 そこでなら、わたしは取り戻せるのかもしれない。

 失ってしまったものたちを、また感じられるのかもしれない。

 手も足もない、四肢のないわたしでも何かが掴めるのかもしれない。

 その直感が、わたしと「彼女」との出会いの始まり。

 わたし賞害しくるしょうがいしくるに遺されていた可能性に、火がついた瞬間だった。

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Hearts Do Hard 久末 一純 @jun-ASAP

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