黄泉返りした亡霊武者の復讐伝〜故郷を滅ぼされた武者、百年後の世界にて無双の武士となり一族を滅ぼした国へと復讐する〜

@shololompa

プロローグ【落陽、そして黄泉返り】

 俺は、幼き頃より体が弱かった。

脳みそを貫かれるような傷み、臓物をえぐり取られるような痛み、全てを恨んでいた。


 

 薬師や医者からは、長くは生きられぬと言われた。故に、俺は生を得たかった。そのために、剣の術を学んだ。




 幸い、俺の家は武士……つまるところ、そういった術を学ぶには事欠かなかった。この体にも関わらず、兄や父は存分に俺に稽古をしてくれて……その時は病のことを忘れることができた。




 だが、時が訪れた。

我が故郷、忌宮国は隣国アルーシャ王国に滅ぼされたのだ。



 連中は俺達のことを"忌人"と蔑んだ。

俺の故郷は強者が多かったが物量には勝てず―――その上で、陵辱され……惨殺された。




 あぁ、だからか。

俺は、憎かった。満足に戦えぬこの体、軟弱で侵食された愚かな体が。


 


 血反吐を吐いて、睨んだ。

奇怪な鉄甲冑を全面に纏ったあやつらを、人の形をした化け物共を。






「この橘原将経(きつばらまさつね)、貴様らを絶対に許さぬぞ。黄泉から蘇ってでも、必ず、必ずや殺してくれる!!」






 家族を殺され、国をも滅ぼされた俺。

その俺の最期は……嘲笑うやつらに心臓を穿たれた最期であった。





 恨めしや。

必ずや、無念を……無念を晴らしてくれる。




























「せ、成功だ!」

 声が、響く。

じんわりと、冷たい空気が俺の体を覆う。




「アノ忌人の死体、泥炭湿地にて保存されていた貴重品。高値を払ってでも手に入れてよかった!」

 


 何だ、この声は。

聞いたことも……耳に入れたこともない。知らぬ声。




「ふふ……蘇れ、我が下僕よ。お前はこれより、ワタシを追放したあの宮廷への復讐の刃を―――ぴぎゅ」


 五月蝿い。

少し、黙れ。



「あ、あああ…、な、なぜ。れ、隸属の紋は確かに入れたはずなのに……そ、そんな」


 手に殴った感覚。

目を開けば、そこには尻餅をついた青白い肌の痩せ男が俺を見上げていた。




「貴様……何者だ」


「ワ、ワタシは死霊術師のジョエル・フォロエグ!偉大なるアルーシャ王国の元宮廷魔術師だ!」



 アルーシャ?

その瞬間、俺の心から得もしれぬ憎悪が湧き出る。



 あぁ、そうだ。

俺は――――あの日、あのアルーシャの者共に一族郎党、国ごと燃やされた。



「貴様、アルーシャ人か」


「そ、そうだ!呪いの忌人の国を浄化したアルーシャの者だ。故に鎮まれ!発動せよ、『隷属の紋』!」


 

 少しばかり、腕がしびれる。

あぁ、なんだ。この程度か。



「効かぬ。アルーシャのまじない師とやらも大したことがないな」


「ひっ、な、なぜ!?」



 アルーシャ人、ここで生かしておく理由もない。

俺はそのまま痩せ男の心臓を蹴りで穿ち殺す。





「他愛もない」

 だが、妙だ。

俺は確かに、あそこで死んだはず……あの忌宮の崖で。



「まさか、本当に俺が化けてこの世に出たというのか?」

 

 黄泉から這い上がったというのか?

この……憎悪で。





「いや。考える必要は無いか……それよりも、体が気だるくないな。化生の類になれば、生前の病なども消え失せるというわけか」


 俺自身の肌を見れば、薄黒く褐色に染まっていた。生前は、もっと青白かったのだが。




「どちらにせよ、外にでらねばな。俺が死んでからどれほど経ったのか……」


 しかし俺の刀もない。

しばらくは徒手空拳で戦わねばならぬ、か。





「よい。どちらにせよ、俺の目的は唯一つ」


 アルーシャを滅ぼし、忌宮の皆への手向けとする。俺が、一族の無念を晴らすのだ。

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