第127話あんた、俺から逃げられると思うのかい(そんなのやってみないとわかりません)

「エグイアス!」

 わたしは呪文を唱えることなく魔法少女に変身し、エグイアスを呼びだした。

 怪物さんの手首は、ガッシリと固く固めたままだ。

 そして何も考えず、一気に一息に怪物さんに向かったふりおろした。

 するとドカンという、爆弾が爆発したみたいなすごく大きな音がした。

 その音があたり一面に響きわたった瞬間、わたしのまわりは一変していた。

 道路や壁や家だったものが、紙みたいにの瓦礫になって、空に向かってまいあがった。

 そのなかに、血と肉片をまきちらすひき肉がいくつも見えた。

 まっ、当然だよね。

 だって、

 わかってて、赤の他人をまきこんだんだから。

 わたしが目の前の怪物から、逃げだすためだけに。

 そのための目くらましと、時間かせぎのためだけに。

「こいし! 早く!」

 近くで、ミドリが大声でわたしを呼んでいる

 目の前で大きな音を聞いたせいで、耳の奥がキンキンしてよく聞こえない。

「わかった! ミドリ!」

 わたしは大声で応えて、

 わたしは埃っぽくて血なまぐさい雨の下をくぐって、ミドリが開けてくれた出口に脇目もふらず走りだした。

 手応えは、確認している余裕はなかった。

 そうして出口を走りぬけ、境界から脱出する。

 そのとき丁度、魔法少女の変身がとけた。

 呪文をとなえなくても魔法少女に変身できる。

 それはとっくにためして確認していた。

 だけど、変身していられる時間はすごく短い。

 だからわたしは、一瞬にすべてをかけた。

 怪物さんのご希望どおり、一発ヤッてみせて

 後先なんて考えない。

 不意打ち、だまし討ちも上等だ。

 あんな怪物と正面から闘うくらいなら、わたしはなんだってする。

 わたしひとり逃げだすためなら、何人だってぎせいにする。

 温かい家庭も団らんも、なにもかもを破壊して。

Killing all the way何が何でも殺さなきゃ

 わたしは境界から外にでてもとの世界に戻ってくると、今度は呪文をとなえて魔法少女に変身しなおした。

 そしてそのまま後ろも見ずに、全力疾走で怪物から逃げだした。




「けほ、けほ。あーあ、してやられたぜ」

 大量の粉塵に塗れたほこるが、ひと言そう呟いた。

 あたり一面瓦礫の山とグチャグチャの挽き肉となった死体が散乱している。

 しかしそのような場で、軌跡ほこるは傷ひとつない姿で立っていた。

「そういうこと、楽しげに言わないでよね。腕、大丈夫なの?」

 相棒のアオが、ほこるの口調に釘を刺す。

「極められたけど折れちゃいないさ。その前に外したからな。しかしそう言われてもな。ここまで見事に逃げられちゃ、他に言葉なんかないぜ。あいつ、最初っから逃げることだけ考えてやがった。自分が逃げ出す為だけに、周りを犠牲にする覚悟を最初っから決めていやがった。全く、大したヤツだよ、あいつは」

 ほこるは周囲の惨状とは真逆に、清々しくそう言い切った。

「あっ、そう。それで、このまま逃がすの?」

真逆まさか

「そう、それなら安心ね。あの子にとっては、どこまでも不幸な事実だけども」

「ははは。それは俺たちじゃなくてあいつが決めることだぜ、アオ」

 そう言うと、ほこるはぐるりと周囲の様子を伺うように首を回す。

「なあ、アオ。もしかしなくても、このは俺たちがやるんだろうな」

「そうね。あなたがを見捨てて、あの子を追うというなら話は別でしょうけど」

「そんなことする訳ないだろ。しかし見透かしてたのかね、あいつ」

「さあ、どうでしょうね」

 アオは素っ気なくほこるに応じる。

「まあ、いいさ。まだまだ目で追えてるんだ。そう急ぐこともないだろ」

「あなたがそれでいいなら、何でも構わないわ」

「有り難いね、流石アオ。それにしてもあいつ、親からちゃんと教わらなかったのかね」

「なにを?」

「後片付けはキチンとしましょうってさ」

 そこでほこるは言葉を切り、表情を改めるあらためる

 心底、楽しげな表情へと。

「けれどあいつは・・・・・・・・・」

「あいつは?」

 アオがオウム返しにほこるへと問い掛ける。

「あいつは、俺の天敵だ」

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