第126話あんた、最初っからヤる気だな(はい、一生懸命頑張ります)
冷たくこごえた心臓が、ドクンドクンと脈うっている。
体はどこまでも冷えていくのに、あたまとこころは熱くたぎって煮立っていく。
ワクワクとゾクゾクがとまらない。
この世界に入るといつもそうだ。
快楽と悦楽の予感に、わたしの本質と本能がふるえだす。
魔法少女と、それに殺されるバケモノたちの世界。
ミドリがわたしに教えてくれた名前は、「境界」。
わたしたちが普段暮らしている世界の裏にある、もうひとつの世界。
一方通行にもとの世界とつながる、枝わかれする前の姿。
ここでなら、できること。
わたしの友だちの、あの子みたいに。
この世界のことについてミドリはいろいろ教えて説明してくれたけど、ほとんどちんぷんかんぷんだった。
世界線の接続があーだこーだとか。
事象の不可逆性がどーのこーのとか。
そんなの、わたしにわかるわけないじゃない。
そもそもこの世界の名前意外、わたしは理解していない。
それでも何とか集中力をふりしぼって、わかったつもりになっているのは片手で数えられるよりも少ない。
ひとつ目は、バケモノたちがあらわれると、この世界が産まれること。
ふたつ目は、
みっつ目は、この世界に誰かがいるかぎり、境界は消えずに残りつづけること。
よっつ目は、誰でも入れるけど、誰もが逃げられるわけじゃない
あの子はあの日、ホントにホントに悪かったんだ。
本当に、運だけが悪かったんだ。
だけどちゃんと助かったんだから、足して引いてゼロだよね。
そして最後のいつつ目は・・・・・・・・・。
「よし、問題なく境界は展開できたみたいだな。流石はアオだ。いつもながら見事な手並みだぜ。惚れ惚れしちまうよ」
「あっそう。それはどうも」
怪物さん――目の前で放たれる威圧感から、思わずさん付けしてしまう――がそう言って褒めても、アオは素っ気なく返事をするだけだった。
もしかしてこのふたり、仲が悪いのかな?
わたしの見るかぎり、とてもそうは見えないけれど。
どちらかと言うと、長ーく一緒にいるツーカーの仲に見える。
いつかわたしとミドリも、こんなふうになるのかな。
「広さもこんなところでいいだろう。あんまりにも広げすぎて、必要以上に部外者を巻き込む訳にもいかないからな」
そう言うと怪物さんは、不思議なほほえみを浮かべた。
それはなんだか、自分で自分をわらっているようだった。
「と言っても、そんなのは言い訳だけどな。こんな街中で境界を展開すること自体、非難されてしかるべきだ。
「それを全て理解しながら自分の欲求を満足させるのが、
ミドリが憎しみのこもった口調で指摘する。
「その通り。俺は悪いひとさ。他人の都合より、自分の都合を優先する、な。それでも自分が何者かを知っているかの違いは、自分で思っている以上に大きいと思うぜ」
「それもただの開き直りだろうが」
「悟っているのさ。俺には、
その言葉をつげた怪物さんのほほえみが、さらに深くなったような気がした。
「まっ、そんなことはお前さんの言う通り、どちらでもいいことさ。それより早く始めようぜ。さっきから体がウズウズして止まらないんだ」
怪物さんも、そうなのか。
なんか一瞬、似た者同士って単語が頭に浮かぶ。
けどわたしは、あわててそれを打ち消した。
「そうですね。早く始めて早く終わらせましょう」
そう言いながらわたしは右手をさしだす。
「なんだい、これは?」
「握手です。どんなかたちであっても手合わせする相手には礼を尽くせと、昔誰かに教わりまして」
わたしは正直に告げる。
「それはいいことを教えてもらったな。その教えは大事にしなよ。それにしても、こんなの始めてだからなんだか照れるな」
言いつつ怪物さんも同じく右手をさしだす。
そして互いに手をあわせる。
この、瞬間を待っていた
わたしは
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