第125話あんた、近くで見ると本当に小さいな(これでもちゃんと食べてます)

 お互い一歩ずつ歩みをすすめ、手のとどく距離まで近づき止まる。

 そうしてふたりがそろって、真正面から向きあった。

 まるでこれから、決闘でもはじめるみたいに。

 でも実を言えば、ただのケンカなんだよね、これ。

 それにしても、このひとホントに。

 すごく、大きい。

 それが、わたしがいだいた最初の感想。

 はなれたところから見ていても、背が高く、肩幅もあり、手足が長いのはわかっていた。

 でもこうしてがこの怪物を間近で見たら、印象が全然ちがう。

 実際の大きさよりも、何倍も大きく見える。

 これがよく言う、つわものが発するオーラ。

 強者の放つプレッシャーというやつなのか。

 このなものを浴びたのは、わたしの短い人生なかでも

「あんた、近くで視ると更に細くてちっこいな。大丈夫か? ちゃんと毎日ご飯、食べてるか?」

 だけど相手は、わたしと真逆の感想を持ったようだった。

 そのうえ、どうやら心の底から心配されてしまった。

 でも不思議と、余計なお世話だとは思わなかった。

「はい、大丈夫ですよ。給食もありますし、毎日三食、食べています」

 それでも体が小さいのは、三食あわせた栄養が全然たりてないからだろう。

 それはわたしが少食なせいもある。

 でも一番の理由は別にある。

 まあ、あの献立じゃしょうがないよね。

 わたしの家の食卓には、タンパク質が圧倒的に不足している。

「そうか? まあ、それならいいんだが。成長期なんだから、ご飯はしっかり食べるんだぞ」

「はい。わかりました」

 わたしもホントは、毎日好きなものを好きなだけ食べたいです。

 なんてことは口にはださず、わたしのむねのなかにだけしまっておこう。

「それじゃあそろそろ始めるか。まずはお互い魔法少女に変身してから試合開始。細かなルールは、そうだな・・・・・・・・・。何でもありでいいか。そもそも。手加減なし、全力でぶつかりあおうぜ。絶対きっとそのほうが、お互い楽しく気持ちよくなれるはずだからな」

 目の前の怪物は、まるでこらから軽いスポーツで汗を流すような気休すさで、聞き捨てならないことを言う。

 魔法少女って闘いあったりするんですか?

 それってあなただけの例外じゃないんですか?

 こんなことは、

 疑問はいくつも浮かんできたけど、わたしは「はい、それでいいです」とだけ返事をした。

「よし、それじゃああんたの気が変わらないうちに、早速舞台を整えよう。アオ、してくれ」

「はいはい」

 アオ――面倒くさいのでわたしもそう呼ぶことにした――がそう応えて手をかかげた瞬間、世界は塗り替わった。

 わたしに快楽と愉悦をくれる素晴らしい世界。

 人間の世界から、魑魅魍魎、悪鬼妖魔が跋扈する、魔法少女の世界へと。

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