第95話わたし、魔法少女になりました そのごじゅうに(わたしは自分の意志ではお酒は決して飲みません)

 もちろん、そんなことをみて思うのはひとだけだ。

 きっとそう感じることができる生き物を、っていうふうに呼ぶんだろう。

 けどそんなこと、のほうからしてみれば全然関係ない話。

 ひとからどうみられているかなんてこと。

 ひとからどう思われてるかなんてこと。

 そんなこと、意識しないに違いない。。

 道端に落ちてる小石には、最初から表も裏もなにもない。

 ただ自然なままの姿で、あるがままにそうあるだけだ。

 それは蟲たちだって同じこと。

 ただそこで、一生懸命生きてるだけだ。

 でもそれをどう思うかは、ひとそれぞれ好き勝手だ。

 それこそ、どう思おうとひとの自由だ。

 かれらがどう思われようと、自由に生きているのとおんなじように。

 そしてひとからどうみられ、ひとからどう思われようと、かれらは

 なにも感じたりなんかしない。

 それこそ、かれらは全然関心のない話。

 それぞれが好き勝手に、ただあるがままに生きてるだけだ。

 、ただ精一杯生きるだけだ。

 けれど、わたしは違う。

 たしかになんにもないけれど、表もあれば裏もある。

 カラッポだけど、底もある。

 でも浅いから、すぐにこぼれてしまう。

 

 ひとに自分がどうみられているか、気になってしかたない。

 いきてるだけで、気持ち悪くみられてるに

 ひとに自分がどう思われているか、不安になってしょうがない。

 いきてることが、気持ちわるいと思わてるに

 そんなひとの無意識の悪意を、わたしは意識せずにはいられない。

 そんなひとのこころない気持ちを、わたしのこころは感じずにはいられない。

 なのに、わたしはひとの思ったようには

 ひとに好かれるように振る舞えない。

 ひとに気に入られるように触れ合えない。

 そもそも、

 それがまた、わたしのこころを底上げする。

 カラッポなのに底があるから、はどんどんたまっていくばっかりで。

 その音は、むなしいくらによく響く。

 それをこぼささないためには、自分で呑み込むしかなくて。

 そうしたら、今度はすぐにあふれてしまう。

 

 わたしはただ、いきているだけなのに。

 ひとはわたしをどういうふうにみているか。

 ひとがわたしをどんなふうに思っているか。

 わたしはそんなひとたちに、想うナニカをもっている。

 、ただ精一杯いきたいだけなのに。

 それでもわたしはわたしが嫌いなひとがわたしにするわたしの嫌なことをやったんだ。

 ミドリにも、そして自分自身でもやったんだ。

 だから、あの言いかたは正しくない。

 わかってるのに、やってしまったなんてこと。

 そんな

 わたしの嫌いな、言い方だ。

 ちゃんと言い直すなら、わたしは。

 わかってるから、やったんだ。

 なにをやっても許されるという自覚があったから。

 なにをされても許してくれると無自覚だったから。

 わたしの嫌いなひとたちとおんなじように。

 わたしがされたのとおんなじように。

 わたしがミドリに、やったんだ。

 そのときは、それができる自分に酔っていた。

 悪いことを、悪いとわかっていながらできる自分に酔っていた。

 大事なものを、大事だと思いながら傷つけることに酔っていた。

 だってそれは、とても心地のいいものだったから。

 あたまがフワフワして、こころがワクワクするような。

 まるで

 言いたいことがどんなことでも言えたんだ。

 あの名前も顔もわからない「誰か」たちは、こんな気分を味わっていたのか。

 なるほど、たしかにこれは気持ちいい。

 たしかにこれは、

 そのときは、まだそう思っていた。

 けどそれは、悪酔いしていただけだった。

 悪い夢をみていただけだった。

 そこから目が覚め酔いが醒めたとき、待っていたのは地獄だった。

 そこにいたのは、

 わたしの嫌いなことを、嫌なことだとわかっていながらやっている自分自身の姿だった。

 そして残ったものは最悪だった。

 悪いことをやってしまった強烈な不安感。

 大事なものを失いそうな猛烈な喪失感。

 何より、そんなものに酔っていた自分自身が恥ずかしかった。 

 恥ずかしくて初めて知った。

 そしてこのときまたひとつ、わかったことがある。

 っていうものは、誰かの手でつくりだされたものじゃない。

 自分自身のこころに呑まれて、うみだすものなんだって。

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