第72話わたし、魔法少女になりました そのにじゅうきゅう(わたしはわたしの意志でひとを傷つけることができるんです)

 いつもどおり、すぐに答えが返ってくると思ってた。

 すぐに応えてくれると思ってた。

 特に意図があったわけじゃなく、別に意味があったわけでもない。

 、ただなんとなく訊いただけ。

 そこまで答えに興味があったわけじゃない。

 そんなに答えがほしかったわけでもない。

 でも、ミドリがどう思ってるかは知りたかった。

 だってわたしの訊いたことには答えをくれるって言ったから。

 わたしが訊いたら応えてくれるって言ったから。

 だけどそれは、ミドリに甘えてるだけだった。

 わたしが厚意によりかかっていただけで、頼りにしていたなんて言えるものじゃない。

 ミドリの好意にあぐらをかいていただけで、任せていたなんて言っていいことじゃない。

 ただわたしがミドリの背中に、おんぶにだっこしてもらってただけだった。

 いつもとは立ち場はどうか知らないけど立ち位置は逆だね、なんて言ってる場合じゃない。

 そんなこと言って笑ってる場合じゃない。

 笑っていい、ことじゃない。

 わたしはミドリのことを何とも思っていなかった。

 ミドリがどう感じるかなんて気にもしていなかった。

 自分にもこころがあるって、ちゃんとひとの思いを感じることができるんだって言ってたのに。

 わたしにちゃんと、言ってくれていたはずなのに。

 なのに、いつもどおりに訊いてしまった。

 こんなことにも、気づくことなく。

 おまえもあいつらと同じなんだろうという意図が、そこにこめられていたことに。

 わたしの言葉で、ミドリのことを決めつけてしまっていた。

 おまえもあいつらと変わらないんだろうという意味が、そこに含まれていたことに。

 わたしの言葉が、ミドリのことを試してしまっていた。

 結局おまえも、、そう思ったことが伝わっていることに。

 そんなことに、いまになって気づいてしまった。

 あいつらがわたしに思ったのとかわらないことを、わたしもミドリに思ってしまった。

 それはわたしの一番嫌いなことなのに。

 あいつらがわたしにしたのと同じことを、わたしもミドリにしてしまった。

 それがわたしの最も嫌なことなのに。

 そのことに、いまさら気づいても遅かった。

 わたしはそれまで何も感じていなかった。

 あのミドリの、を見るまでは。

 わたしはここまで何も思っていなかった。

 あのミドリを、なんて。

 

 でもその言葉だけは決して、口が裂けても胸が張り裂けても、言葉にしてわたしのそとにだすわけにはいかなかった。

 どんなつもりだろうと、わたしの意志がミドリを傷つけたのは

 そんなつもりなんてどこにもかけらもなくっても、ひとはひとを傷つけることをわたし自身が一番よく知っている。

 その傷跡がいまもわたしのこころに消えることなく、いくつもいつまでも残っているから。

 だけどこれはわたしのちっぽけな意地。

 こんなことを、、それはわたしの汚い意地だった。

 だからあいつらと一緒なのは、結局

 自分の一番嫌いで最も嫌なモノに、わたし自身がなっていた。

 ひとを傷つけても、そんなつもりなんて全然なくひとを傷つけるために傷つけることができる

 それなのに、ミドリはわたしに応えようとしてくれる。

 それはわたしが訊いたから。

 それでもミドリは、わたしに答えてくれる。

 だってわたしが訊いちゃったから。

 だけど、わたしは初めて思う。

 お願いだから、こたえないでと。

 傷ついたのなら、わたしのことをとがめてほしい。

 悲しいなら、わたしのことをせめてほしい。

 だからお願いだから、

 けれどその想いすらミドリのためのものではなく。

 わたし自身のためのものだというのに。

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