第71話わたし、魔法少女になりました そのにじゅうはち(それはたしかにもったいないとわたしの意志は思います)

 もったいない。もったない、か。

 まるで魔法の言葉みたいだよね。

「素敵な言い方だね、もったいないって。それに何よりもそのこころがけが大事だよ。そう思う気持ちがね」

 つかえるものはつかわないと。

 こわれるまでつかわないと。

 じゃないとお化けに食べられちゃうよ。

 むしろ、逆にそのお化けのほうを食べちゃいたいくらい。

 いままで何度、その気持に救われてきたことか。

 これまで何回、その言葉に助けられてきたことか。

 板子一枚下は地獄だった、わたしたちの崖っぷち生活が。

 一度落っこちたら、ビルから地面までノンストップ真っ逆さまなかんじで。

 でもその言葉があったから、その気持ちを持っていたから、わたしたちの生活が縁の下で何とか支えられてたといっても言いすぎじゃないと思う。

 いや、やっぱり少し言いすぎたかな。

 だってこの言葉を唱えておけば、価値のないものでも価値が気にさせられる。

 いまは価値がなくても、あとで価値がと思わせることができる。

 お金の価値は、何かにかえることができるからあるものだけど。

 ものの価値なんて結局のところ、つかえるかつかえないかの

 だけどわたしがこの言葉が好きなのも、いいことだと思うのもホントのことだ。

 それに実際この言葉に助けられて救われてきたのは、ちゃんとした

 だから、きっとみんな思ったんだろう。

 そういうことならもったいないものだとでも思ったんだろう。

 みんながきっと、おんなじことを思ったんだろう。

 このままにしておくのはもったいないことだとでも思ったんだろう。

 彼女も、きっとそう思ったから遣ったんだろう。

 わたしたちを、魔法少女にしないのはもったいないって。

 お母さんも、そう思ってたからきっと使ったんだろう。

 、魔法少女にしないことはもったいないって。

 そしてわたしも、おんなじようにそう思う。

 、魔法少女にならないなんてもったいない。

 いまこのときを、楽しまないのはもったいない。

 だったらわたしはこんなことになった、愉しまなきゃ、いけないんだ。

 うん、なるほど。あんたの言ったとおりだね。

 たしかにこれは

「っていうふうにわたしは思うんだけど、?」

 わたしは何の気なしに訊いてみる。

 それはわたしの想いを、押しつけてることに気づかずに。

 それがミドリのことを、追いつめてることに気づけずに。

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