第73話わたし、魔法少女になりました そのさんじゅう(わたしの意志には見るべきものしか映りません)

 ホントはほんの一瞬だけだった。

 ミドリが何も言わずに黙ったままだったのは。

 そのあいだ、悲しい顔を見せたのも。

 だけどその一瞬はわたしの一生よりもはるかに久しく、そして痛い永遠だった。

 けれどもそれは、全部わたしだけが意識したことでしかない。

 だけのこと。

 一瞬は一瞬、それ以上でも以下でもない。

 瞬きよりも短く、川の流れよりも早く過ぎさっていく。

 は、わたしを待ってなんてくれはしない。

 時間だけは誰にでも平等なはずなのに。

 どうしてかわたしにだけは公平じゃない。

 いつもわたしだけを置きざりにしていってしまう。

 いまも、そう。

 わたし以外の、誰にも等しい時間が過ぎたあと。

 わたしの願いは叶わなかった。

 でもそれは当たり前だ。

 だってわたしは願いを叶えるために、

 ただ手を合わせて、頭を下げて、地面を見ているだけで叶う願いなんてどんな小さなものでもあるわけない。

 こんな世界だったら、なおのことありはしない。

 そして、世界はいつもどおり動きだす。

 いつもどおり、わたしだけを置きざりにして。

 そのときミドリは、それこそ一瞬だけちらりと視線を横をへとそらす。

 そうしてからもう一度、視線は前へと向きなおる。

 わたしを正面から見すえるように。

 いつもどおりの、いつも以上に落ち着いて揺るぎない緑色の目が、わたしを絡めとるようにとらえて離さない。

 それはきっと、わたしがミドリに負い目を感じているからだ。

 この期に及んでもミドリに対して謝りたいと思うより前に、自分の背負ったものの重みだけを感じていた。

 こういうところがあいつらと一緒なんだと、つくづく思い知らされる。

 そんなわたしの瞳に映るそのミドリの目には、もうあの傷は見られなかった。

 でも、それはわたしの目には見えないだけ。

 わたしがミドリを傷つけた事実は消えることはない。

 傷つけられた痕はずっと残り続ける。

 傷ついたキズはずっとあり続ける。

 こころのなかに刻まれたまま、ずっとずっと消えることはない。

 そのキズを抱えたまま、ミドリはわたしにこたえてくれる。

 わたしの願いを、わたしの望みどおりに叶えずに。

 わたしに訊かれたことに答えるために、ミドリは思いを口にする。

 わたしが訊いてしまったことに応えるためには、ミドリは想いを言葉にしないといけないんだから。

 わたしはそれをミドリの目を見つめたまま黙って待っていた。

 ミドリがわたしに応える前にどうして視線をそらしたのか。

 そこに目を向けることもなく。

 そのミドリの目の向く先にいったい何があったのか。

 それに思いがいたることもなく。

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