第55話わたし、魔法少女になりました そのじゅうに(わたしの意志はどこにありますか)

 わたしはどうすればいいんだろう。

 どれから選べばいいんだろう。

 どうやって決めればいいんだろう。

 誰に言われたことを信じんたらいいんだろう。

 誰の言うことを信じればいいんだろう。

 わたしがここまでどうしてきたのかも。

 わたしがこれからどうしたらいいのかも。

 もう何もかも全部わからななくなった。

 わたしには、もう何もわからなかった。

 こんなにも頑丈で安心できるものはないと思ってた。

 いままで教えられてきたものが、いっこずつ積み重なってできた階段。

 それをわたしは一段ずつでも、しっかり登ってきたつもりだった。

 それが崩れることなんて、ありえないと思ってた。

 これまで教わってきたものが、ひとつずつ敷き詰められてできた通り道。

 そこをわたしは一歩ずつでも、たしかに歩いてきたつもりだった。

 そこに穴が開くことなんて、あるわけないと思ってた。

 わたしはそうしているべきなんだと、それが当たり前だと思っていた。

 そうしていれさえすれば、わたしはちゃんと生きることができるのだと。

 そう教えらたことを、疑いもしなかった。

 わたしはそうしなければならないんだと、それが自然なことだと思ってた。

 そうしてさえいるならば、わたしはちゃんとしたひとになれるから。

 そう教わったことを、疑うわけがなかった。

 そうして築きあげてきたものが、わたしのいしずえ。

 それはわたしの想いの基盤であり、指向の起訴であり、行動の基準だった。

 そのうえにあるのがわたしの意志だと、何の疑問も持たなかった。

 そのわたしの意志で選択し決めていることに、何も不思議を感じなかった。

 それだけは全部わたしだけのものなんだと、疑わうことさえしなかった。

 わたしの登ってきた階段がどれだけ細いものだったのか、知ることはなかったから。

 わたしの歩いてきた道がどれだけ狭いものだったかのか、知りもしなかったから。

 だから、こんなに脆く柔らかいものだなんて思わなかった。

 あんなにも固く厚いものだと思ってたいたのに。

 、どれだけ頑なでこんなにも儚いことを。

 いまさらになって、わたしは初めて知ったんだ。

 それはまるで砂のよう。

 かたちをもっているうちは、ずっとそのままであり続けると思ってしまう。

 何もなければ、変わらず同じであり続けてしまう。

 でもちょっとでも綻べば、少しでも揺らいだら、たちまち全部なくなってしまう。

 最初からそこには何もなかったように。

 そのことを、わたしはいまになって知ったんだ。

 結局、わたしはカラッポのままだった。

 いままでわたしのなかにあると思っていたものは、これまでわたしのなかに詰めこんできたものは、砂だった。

 揺らいで、崩れて、綻んで、空いた穴から溢れ落ちて流れてしまった。

 わたしのなかには、もう何もなくなってしまった。

 だからもう、わたしにはわからない。

 どうしたらいいのか、わからない。

 そういえば、そうだった。

 いまこのときの始まり。

 あの子が食べられているのを見ちゃったとき。

 わたしがどうすればいいのかを言葉にしたとき。

 どうしたらいいのか答えてくれたひとがいた。

「ねえ? あんたになら訊いてもいい?」

「なんだい?」

 この緑の目なら、どうしたらいいか答えてくれる。

 だって、訊かれたことには必ず答えるってたもん。

 だって、わたしに嘘はいわないって言ってたもん。

 だから、きっとこの緑の目なら。

「わたしはどうすればいいの? わたしは、?」

「残念ながら、ボクにはキミの問いへの答えはない」

 けどその答えは違ってた。

 わたしの聞きたい答えじゃなかった。

 わたしのほしい答えじゃなかった。

「どうして! なんで答えてくれないの! 訊かれたことには全部答えてくれるんでしょ!」

「ちゃんとキミに応えたよ。ボクには答えがないという応えを」

「そんなこと……!」

「何故なら」

 そこで緑の目はわたしの言葉を遮った。

 いつもどおりに落ち着いて揺るぎない、だけどいつもよりはっきりとした強い口調で。

「何故なら、答えは。キミはカラッポなんかじゃない。それはね、キミは掴み続けているからだ。キミは

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