第13話わたし、魔法少女の仕事の真っ最中です(仕事って難しいものですね)
あいつらがいったいどうするか。
そんなのもちろん決まってる。
もし、お友だちが、いじめられてるのを見たときは?
無視をするに決まってる。
じゃあ、お友だちが、苦しんでるのを見たときは?
放っておくに決まってる。
それなら、お友だちが、いまにも殺されそうなのを見たときは?
何もしないに決まってる。
じゃあ、あいつらが、
わたしが、弱いところを見せたとき。
あいつらが、弱いものを見つけたとき。
襲われるに決まってる。襲ってくるに決まってる。
あの子みたいに、襲われるに決まってる。
あの子のときみたいに、襲ってくるに決まってる。
そして、
あいつらをいったいどうするか。
そんなのもちろん決まってる。
わたしの友だちが、食べられてるのを見ちゃったから。
あいつらを見ていることに、これ以上耐えられないから。
心の飢えを、知っちゃったから。
どうすれば満たされるか、解っちゃったから。
あの快感を、味わってしまってしまったから。
どうしたいかなんて決まってる。どうしてやるかなんて決まってる。
だって
わたしがやるって、覚悟をしたから。
終わらせるって、決意をしたから。
だから、わたしがどうするか。
おまえたちが、どうなるか。
あいつらに教えてやるために。
右手に握りしめたその
別に期待をしてたわけじゃないけれど。
それでも、思った通り、予想通り、わたしの背中に、群がってきたあいつらに。
やっぱり、ひとりじゃ
わたしに、いじめられて、苦しんで、殺されそうになってたお友だちを。
振り返ることもなく、ゴミみたいにポイッと投げた。
それは、老人が運転するクルマみたいに、止ることなく加速して、あいつらを轢いてった。
だから、危ないって教えたのに。
丁度、
ああ、こういうの映画で観たことある。
わたしはその様子
わたしの目は前にしかついてないから、当然後ろで何が起こってるかなんて見えるわけない。
でも、知ることはできる。
エグイアスが教えてくれるから。
そのたくさんある目をギョロギョロと動かして、四方八方三百六十度、隈なくスキなく目を凝らしてくれている。
そのたくさんある口のひとつが、声なき言葉で知らせてくれる。
だから、わかる。
どうなっているかわかるから、どうすればいいかも自然とわかる。
次になにをすればいいのかも。
まだ倒れたまま転がってる四人を自分の目で確認し、そいつらを飛び越えるように、助走をつけずにジャンプする。
わたしが投げたやつは無視。
ぶつかってからほとんど動かないけど、
幅跳びみたいにジャンプしたまま、地面に転がる四人と、上下で重なったところで下を見る。
こんなときまで仲良く並ばなくもいいのに、とお友だちとぶつかった衝撃で悶ている奴らを見て思ったけど、
そのままやつらの上を飛び越え様に、横に一本、地面に線を引くようにエグイアスを振り抜いて、やつらの下半分と手首の先を削り取る。
前に漫画で読んだお化けの
あれは何だか悲しい話だったけど、おまえたちはしばらくそのまま、苦しんでいるといい。
それにしても、何だかさっきまでと、
そんな違和感を覚えながらも、体の動きは止まらない。
右足で着地して、左足を地面につけることなく、そのまま右足でまたジャンプ。
今度は一番遠いところにいるやつを目標に、大きく力を込めて踏み切った。
一番遠いところにいる、一番
そいつは、突然授業中にあてられた男子みたいな顔をするだけで、結局
そのままわたしに、前のやつらと同じく下半分と、ついでに両腕も削られる。
汚い悲鳴をあげるそいつの首を、右手で掴んだところでまた、後ろから飛びかかってきたやつらを見もせず地面に叩き落とす。
半分以上軽くなったそいつを、さっきの連中のところへポイッと投げる。
地面に叩き落としたやつれも、ひとりずつ両肘と両膝をエグイアスで砕いて千切ったあとに、同じところへ蹴り飛ばす。
あとは大体、ひたすらこれの繰り返し。
わたしが近づく。
そうやって繰り返していくうちに、段々違和感が強くなる。
というか、段々
「それがキミのアルターイドの、本当の力だね」
やっぱりきたか。
「相変わらず唐突だね。まだ会ったばっかりだけど」
「そうかな。ボクは
それってずっと
ずっと後ろに張り付いて待ってたってこと?
だとしたらちょっと怖い。
だってこの緑の目の不動と沈黙には、あいつらのものとは違う、明確な意志を感じるから。
自分の意志で、選んで、決めたのだと、何となくわかるから。
何となくしか、わからないから。
何を考えてるのかわからないから怖んじゃなく。
何を考えているのかわかるのが怖いんだ。
わかったときが、怖いんだ。
でも、逃げない。負けない。立ち向かう。
そこは必ずはっきりさせる。
でもそれを訊くときは、わたしは後ろを振り向いて、後ろに一歩、踏み出さなきゃいけないんだ。
後ろに一歩、踏み込まきゃ、いけないんだ。
だからいまは、前に進むと決めたんだから、訊くべきことを最優先。
「それでホントのちからって?」
「そう。キミも朧気ながら気づいてると思うけど、まあキミが気づいたからボクが理解できたんだけど。キミのアルターイド、<
えーと、それって。
「といことは、あいつらを殴れば殴るほど、一発の威力が上がるってこと?」
「そう言ったと思うけど。キミのエグイアスは、壊し、傷つけ、そして
それは、そうだけど、わたしは魔法少女になりたかったけど。
だけど、わたしは
でも、わたしは、
そして、わたしは魔法少女になった。
そんな、いまのわたしのやりたいことは――。
その思いをこころにしまって、わたしは別のことを口にする。
「確かに言うとおり手応えがなくなってきたのは
最初は一発なぐれば風船みたいに弾けたり、吹っ飛んでたりしてたけど。
「それは当然だよ。キミの殺したくないという思いを、死なせたくないという気持ちを、エグイアスが汲んでくれてるんだから。キミの手加減したいという
えっと、それって。
「それって、全部
わたしはただ、思ったことをそのまま口にだしていた。
なんでそんな
もしかして否定してほしかったのか。まさか肯定してほしかったのか。
そんなことを訊かれても、緑の目はいつもどり、揺るぎなく落ち着いた声で、訊かれたことには答えてくれる。
訊かれことだけ、答えてくれる。
「そうだね。全部キミのせいで、キミのためだね。さっきも言ったでしょ。
淡々と、責めるわけでもなく、慰めるわけでもなく、その事実だけが答えだと、落ち着いて告げる。
その事実だけが全てだと、揺るぎなく告げる。
だから、わたしは。
「ごめんね。エグイアス。わたしのわがままに付き合わせて」
あやまった。あいつらの血と肉で汚く淀れたエグイアスに。
あやまることしかできないなんて、そんな理由で。
わたしにできることはこれしかないなんて、そんな言い訳で。
それでもエグイアスは応えてくれた。
「そっか。エグイアスは優しいね」
その優しさの百分の一でも、この緑の目にあればいいのに。
そんなわたしを
「そんなこと、ボクに言われても困るんだけど」
言ってないし。
少なくとも口にだしてないし。
それでも、もし何かの拍子で聞こえていたなら、聞いてるなら、そんなことは口にしない程度の配慮はしてほしい。
「これでも頑張ってるつもりなんだけどね。そこは追い追い分かってもらえるようにしていくよ」
だから、そういうところが。
このままだと堂々巡りというか、アリ地獄にはまりそうだったから、わたしは強引に話題を変える。
ホントは無視するのが一番なのかもしれないけど、何故かそうする気にはなれなかった。
「じゃあ、いままでと同じようにやっていけば、エグイアスはどんどん強くなっていくってことでいいの?」
「キミが魔法少女でいる限りはね。それより、同じようにって、
そう言って緑の目は、穴の真ん中
いや、同じじゃないのはわかってる。
上に積まれているやつほど、新しくあそこに捨てられたやつほど、体の破損や損傷がひどくなっていく。
それは段々と、やつらを傷つける行為が非道くなっていってるということ。
それは他でも何でも誰でもない、私自身がやったこと。
そしてこれが一番の違和感の原因。
「
その言葉、十秒前の
わたしは手鏡のひとつも持ってない自分のことを、うまれて初めて、本気で悔いた。
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