第11話わたし、魔法少女の続きをします(なってからが本番でした)

 わたしはやつらに教えてやった。

 おまえたちがどんなことをしたのかを。

 わたしの友だちに何をやってくれたかを。

 わたしがおまえたち全員を、これからどうしてやるのかを。 

 それを最初のひとりで教えてやった。

 おまえたちがただの汚い肉袋だってこと。

 皮も肉も骨もふっ飛ばし、血と臓物をぶち撒けさせて。

 次はおまえもこうなるぞって。

 最後までおまえたちをこうしてやるぞって。

 鐘を鳴らしてランプを点けて、結構派手に教えてやった。

 ここからは、ただ殺してやるだけじゃすまさないって。

 わたしの友だちを食べたおまえたちを、絶対に許しはしないって。

 わたしの友だちで遊んだおまえたちに、情けをかけるこことは決してないって。

 ひとり残さず、容赦はしないって。

 もう、ただ殺したいから殺すんじゃなく。

 殺意を込めて、殺してやる。

 憎悪を込めて、殺してやる。

 それだけわたしは

 教えてやった、はずなのに。

 

 こっちが殺しにきてるんだから、そっちも殺しにくるのが、

 さっきわたしに、殺意の目を向けたのに。

 さっきわたしを、敵だと認めた顔したのに。 

 なのになんで、そんな目と顔をする。

 恐怖を感じてるのは見てわかる。

 こいつらでも、死を恐れてるのはよくわかる。

 死ぬのが怖いというのがよくわかる。

 殺されるのが嫌だというのがよくわかる。

 それなのに、なんでそんな目と顔になるのかよくわからない。

 まるで仲良しグループ他人の群れに、異物が入ってきたときみたいなその顔が。

 どこか画面の向こう違う世界の出来事を見るような、現実を見ていない無関心だけを映したその目が。

 なんで戦う気がないのかわからない。

 なんで殺す気がないのかわからない。

 どうしてここまで、ホントによくわからない

 まさかこいつらもしかして。

 ここまできても、やる気がないんじゃいか。

 かわりにやってくれると、思ってるんじゃないだろうか。

 だから自分は何もしなくていいなんて、考えてるんじゃないだろうか。

 、本気で信じてるじゃないんだろうか。

 そっか。いまようやくわかったよ。

 おまえたちは恐怖で退いた。

 でも逃げ出さないんだと思ってた。

 だけどそれは違ってた。

 おまえたちは、最初から逃げてたんだ。

 この現実から、逃げだしてんだ。

 現実なんて、見ちゃいなかったんだ。

 嫌なものから逃げ出して、見たくないものから目をそらして、やりたことだけやったんだ。

 だからあの殺意は嘘で、敵意も偽り。

 上っ面だけのイミテーション。

 安全なところでしかできないパフォーマンス。

 そこに一歩でも踏み込まれたらもうお終い。

 目をそらせなくなったから、自分でフィルターをかけたんだ。

 そうやって、自分には関係ないって思い込んで、自分を守るために逃げんたんだ。

 他の全てを投げ捨てて。

 ひとりじゃないから弱くない。みんなでいるから大丈夫。群れているから強くなった気になれる。

 だから、自分がどこに立っているのかも、ホントはわかっていなかったんだ。

 それならあいつら、自分が何をやったかなんて、ホントにわかっていないんだ。

 わたしのことなんて最初から、見てもいないからわからないんだ。

 だからこその、それがこの目と顔の正体か。

 なんて、

 他人のことはもてあそび。

 自分のことをひとまかせ。

 最初から最後まで、自分のやりたいことをやるだけで、あとは全部知らんぷり。

 、死ぬのが怖くて、殺されるのも嫌なんて。

 そんなやつらは、

 殺されて、死ぬべきなんだ。

 もしかしていままで殺したあいつら全部、自分が殺されたことも死んだことも、

 だから一度も今際の際に、声をあげたりしなかったのか。

 だから何人殺しても、を殺してる気がしなかったのか。

 そっか、それじゃあ

 どうすればいいか、わかったよ。

 そんなに現実が嫌だっていうんなら、わたしがさよならさせてやる。

 おまえたちが、いったい、きっちり教えて殺してやる。

 おまえたちが、逃げ続けて目をそらし続けたものが、しっかり教えて殺してやる。

 わたしがおまえたちの、こころに刻んで殺してやる。

 あの子みたいに。あの子のように。

 あの子が何を思いながら、おまえたちに食べられたのかわからないけど。

 自分が弱いから殺されるのを理解しながら、自分が捨て続けたものを抱えて死ぬといい。

 わたしがそうしてあげるから、心おきなく、殺されて死ぬといい。

 そんなことはあの子にとって、何の意味もないのはわかってるけど。

 それでもわたしはそうしたい。

 それがわたしにできる、やるべきことだと思うから。

 それにこいつらを見ていると、殺したくってしょうがない。

 目の前から、消してしましまいたくってどうしようもない。

 わたしの友だちに何をしたのか関係なく。

 自分の飢えとも別のもの。

 頭でもこころでもなく、お腹の底でグツグツと煮えるもの。

 怒りでも憎悪でもない、もっと単純でありふれた感情。

 こいつらのことを考えてると、

 、お腹のなかが沸騰しそう。

 その理由はわかってる。

 誰に言われなくてもわかってる。

 嫌というほどわかってしまう。

 だって、自分自身のことだから。

 先へ進むと覚悟したなら、逃げていいことじゃない。

 前を向くと決めたなら、目をそらしていいことじゃない。

 だったわたしは、魔法少女なんだから。

 いまは、怒りも、憎悪も、イライラも、全部呑み込んで受け入れる。

 そうして、やれることを、やるときなんだ。

 だから。

「だからいくよ、<>」

 そうわたしがを呼んで、左足を軸に回転しながらグルっと一周振り抜いた。

 わたしの周りに、ステッキの横っ面で引っぱたき、まとめてごっそり削り取る。

 さっきみたいに下半分だけになったバケモノたちが、血を吹き出しながらドミノみたいに倒れてく。

 すると、バケモノの血を浴びて肉で汚れたステッキが応えてくれた。

 ただでさえ大きくて、そして禍々しくて毒々しい。わたしが憧れてた魔法少女が持ってたアイテムに、工事現場の機械を合体させたような、どこかコウモリに似ているバットみたいな、わたしのステッキ。

 何かを壊すためにあるような、誰かを殴るためにあるような、そんなステッキが形を変えて応えてくれた。

 ギチョンギチョンギチョンと、妙に生っぽい機械の音がして、ステッキのそこら中に目と口が開いていた。

 それはたくさんの福笑いを混ぜて、大失敗したような感じって言えばいいのか。

 良く言えば誰でも知ってる超有名な画家の絵みたいな、悪く言えばいくつもの人の頭をねじり合わせてのばしたような見た目だった。

 ホントはあんまり言いたくないけど、なんというか、うん、まあ、でもこーいうのもいまの時代ありだよね?

「おめでとう。ついにキミのアルターイドが目覚めたね」

 まさにこのタイミングを狙ってたみたいに、いつもどおり緑の眼が、説明をしてくれる。

「目覚めたって……確かに目はいっぱい開いてるけど」

 目どころか口まで開いてるけど。

「それが本当の姿だよ。キミのアルターイド、〈街角に灯る蝋燭:エグイアスキャンドルフラワー:エグイアス〉だよ」

「だよって、知ってるならもっと早く教えてよ。それにあるたーいど?ってなに?」

 わたしは不満を口にする。この緑の目、訊けば答えてくれるし訊かなくても勝手に説明してくれる。けど、は訊きようがない。

「それは御免ね。ボクもキミのアルターイドについて解ったのは、それが目覚めた瞬間だから、勘弁してね。アルターイドっていうのはあとで詳しく説明しようと思ってたけど、簡単に言えば魔法少女の証明、魔法少女であることの保証。まあ、名刺がわりみたいなものだよ」

 名刺って、それじゃあいままでわたしは名刺を武器にして、バケモノたちを殺してたのか。

 トランプを武器にして戦うのと、果たしてどっちがマシなんだろう。

 それにその言い方だと……

「そしてアルターイドが目覚める条件が、魔法少女になる決意、魔法少女として生きる覚悟、魔法少女である自覚、の三つだから。これが揃わないとアルターイドは目覚めないし、本当の力を発揮できなんだ」

 なんでそんなよくわからない条件が、しかも三つもあるんだ。それに。

「そこらへんの説明を最初にしてくれたら、もっと早く目が覚めたんじゃないの?」

 この気持ち悪い真の姿とやらに。とは言いたくない。

「ひとに言われてそ考えても意味がないからね。あくまで全部。自分の思いで決意して、自分の意志で覚悟して、自分の感情で自覚する。そうして初めてアルターイドは目覚めるんだ。だからキミは本当のすごいよ。初めて変身してこの条件をみたした子はほとんどいないのに」

 いや、だからその言い方だともう……

 あーでも、まあいっか。

「なんかさっきもいったような気がするけど、とりあえずわかったよ。それで今更だけど、このアルターイドって武器なの?」

「今更だけど、キミの使い方で間違ってないよ」

「もしかしてこれ、さっきより強くなった?」

「間違いなく、確実にね」

「それでわたしのエグイアスの真のちからってなに?」

「それはまだ解らないよ。キミがその力を感じたときがボクが理解するときだから。でもきっと、使ってみてとしか言えないね」

 なんだそれ。でも確かになのに嫌な感じは全然しない。むしろすっごく馴染む。

「さあ、他に訊きたいことはあるかな?」

 さっきも聞いたような気がするけど、それを訊きだすときりがない。でも。

「じゃあ最後にひとつだけ。あと何か?」

「ないよ」

 ノータイムの即答。なのに、焦りも乱れも感じられない落ち着いた声だった。

「ボクは最初からキミに隠してることなんて何もないよ。訊かれたことには全て答えるし、大事なことは完全に伝えるし、必要なことは余さず説明するよ。ただ要らないことを言わないことがあるだけで」

 それを自分で言うのがホントにこの緑の目らしい。会ってまだちょっとした話してないけど、心の底からそう思う。そもそも口なんてないくせに。いったいどうやって喋ってるんだろう。

 それに比べてエグイアスは、こんなに口があるのに無口だね。

 あとでいっぱい話しかけてみよう。

「わかった。その言葉を

「ありがとう。何より人に信じてもらえることが、ボクたちにとって一番嬉しいことだからね」

 はあ、、ね。ホントに隠す気、ないんだなあ。

「じゃあ、行こうか。ザ――」

「うん、いくよ。わかってる」

「最後まで言わせてよ」

「だって?」

「その通りだよ。それじゃあ第3ラウンドの鐘でも鳴らす?さっきみたいに」

「必要ないよ。もうこれで終わらせてくるから」

 そう、これで終わりにする。この期に及んでいまのいままで何もしてこなかったあいつらを、全員殺して終わらせる。

 名前を知ったと一緒に。

「これからよろしくね、エグイアス」

 返事が返ってくると思ってなかったけど、エグイアスは声じゃなくにっこり微笑んで返してくれた。

 彼女に開いてる口を全部使って。

 でもその微笑みはいままでみた誰のものより、美しい微笑みだった。

 それじゃあ最後にひとつだけ、あいつらに教えて終わらせよう。

 この世には

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