第10話わたし、魔法少女を始めたいと思います。(なっただけじゃ駄目でした)

 わたしは初めの一歩を歩きだす。

 覚悟を決めて進みだす。

 二度と止まらず退かない覚悟を決めて、さらに前へと踏み出すために。

 わたしは次の一歩を歩きだす。

 決意を込めて前を向く。

 もう後ろを向かず下も見ないと決意を込めて、その先へと踏み込むために。

 だから、わたしはバケモノたちと向かい合う。

 目を合わせて向かい合い。

 初めにあいつらを殺すため、次に友だちを戻すため、そしてを取り返す。

 そのために、わたしは進んで前に歩きだす。

 だけど、あいつらはそれに応えない。

 とっくに起きあがって立ち上がり、こっちを向いてるはずなのに。

 目まで合ってるはずなのに。

 相変わらずさっきと同じ、肩寄せ合って固まって爪と牙を鳴らすだけ。

 それどころか、わたしが一歩前へ進めば、あいつらは一歩後ろへ退がる。

 まるで磁石が反発するように。

 同じ極どうしが、くっつくことがないように。

 は、決してまじわらないとでもいうように。

 同じモノだと、思われたくないとでも言うように。

 よくわからないけど、そんなのどうとでも言えばいい。

 いまわたしにわかったことはひとつだけ。

 あいつらは消極的でも照れ屋でも何でもない。

 ただの臆病者で卑怯者だということだけだ。

 あいつらは、自分たちより強いものと戦わない。

 バケモノたちは、こっちに向かって生命をかける勇気もなければ、逃げて生き延びようとする根性もない。

 あいつらは、自分たちより弱いものしか襲わない。

 あるのは安全なところでこっちを囃すだけの卑しさと、群れになって利益をさらおうとする浅ましさだけ。

 そうしてあの子を食べたんだ。

 ひとりでいたあの子のことを、群れになって食べたんだ。

 あの子のほうが弱いことをわかってて、自分たちのほうが強いのを知っていて。

 それでも群れをつくって群がったんだ。

 群がって襲ったんだ。

 みんなでいるほうが安全だから。ひとりでいるより安全だから。

 もしも何かあったとき、自分だけは助かるかもしれないからだ。

 ひとりでやるのは怖くても、みんなでやれば恐れる必要なんてないんだから。

 そうしていればおこぼれを、誰かの得を奪えるかもしれないからだ。

 それは生き物の生存本能だとか、動物の生存戦略だとかそんなものじゃ全然ない。

 あいつらには知恵がある。

 どうすれば自分たちが傷つかず、一方的に効率よくひとりをいたぶることができるかを考えられる、腐った脳が頭にある。

 あいつらには感情がある。

 弱いものを虐めて嬲って責めることを、気持ちいいと感じ心地いいと思い快感を味わう、下劣なこころが胸にある。

 なるほど。そういうことなら確かにそうだ。

 わたしとおまえたちは似たモノ同士なのかもしれない。

 どこにでもいる、いくらでも、ここにもひとり目の前にいる、低俗な人間たちとそんなに違わないのかもしれない。

 考えてることも、思ってることも、やってることも、ほとんど大差ないのかもしれない。

 だとしら、わたしとおまえたち、人間とバケモノ、その間にあるのは違いじゃなくて、ただ程度の差があるだけなのかもしれない。

 もしかしたら、なのかもしれない。

 だけど、そうだったとしても、ひとつだけ、わたしとおまえたちじゃ決定的に違うことがある。

 他のはどうか知らないけど、わたしはそうだと確信する。

 それは、おまえたちは群れることでできたけど、わたしはひとりでやった、とかの話じゃなくて。

 たとえば、わたしはきっと誰彼構わずみさかいないけど、おまえたちは多分弱いものしか襲わない、とかいうことを問題にしてるわけでもなく。

 そこで人間らしく欲望を我慢できるか、バケモノらしく欲望に忠実かなんてことは関係ない。

 わたしとおまえたちの違いはただひとつ。

 わたしは前に進んだ。おまえたちは後ろに退いた。

 恐怖という一線を。

 わたしが何を思ってそうしたかなんてどうでもいいし、おまえたちがどう考えてそうしたかなんて知ったことじゃない。

 ただその事実だけがすべてだ。

 人間とバケモノの違いじゃなく、わたしとおまえたちの唯一無二の境界だ。

 あとは好きに思って、勝手に考えればいい。

 同族嫌悪でも自己矛盾でも類似性の法則でも何でも自由にすればいい。

 わたしも

 さっきはおまえたちのことを話がわかるやつらかも、なんて思ったけどあれはわたしの間違いだ。

 わたしとおまえたちが似たモノ同士だからこそ、わかり合うことは絶対にありえない。

 たとえ言葉が通じても、気持ちが通じることはない。

 それはこの世界が証明してる。

 みんなが嫌になるほどそうなってる。みんなが嫌だって言ってもこうなってる。

 その理由はわかってる。原因だってわかってる。

 だけどみんなそうしない。

 それはいまのわたしも同じこと。

 わたしはもう

 それはおまえたちが、

 だってもう、わたしはやると決めたんだから。

 わたしが殺すと、決めたんだから。

 わたしが殺してあげるんだから、せいぜい派手に鳴くといい。せめてわたしに殺されるときくらい、あの子に泣いて詫びるといい。

 赤信号みんなでわたれば怖くない。

 それがどういう意味か教えてあげる。

 おまえたちがどんなことをしたのか教えてあげる。

 に、何をしたのか、その体と生命に教えてあげる。

 そしてわたしは歩く動きはそのままに、何の予備動作もなく足首の力だけでジャンプする。

 ジャンプして、やつらの群れのど真ん中へと飛びかかる。

 やつらはそれを目で追うだけ。

 少しは散るなり避けるなりすればいいのに。

 仲いいね、ホント。まるでクラスの女子たちみたい。

 それならそうだおまえたち、

 仲間はずれは寂しいもんね。

 まあ、わたしも一応、女子なんだけど。

 だからまずは最初のひとり。丁度わたしの着地点にいた、不幸で女々しいを、上から押し潰すようにぶっ叩く。

 もちろん、魔法少女なのでステッキで。

 その間抜けはバチンと弾けて消し飛びながら、赤い中身を撒き散らす。

 それがおまえたちの無視した赤信号デッドランプだ。

 赤信号、無視してわたるとどうなるか、轢かれて死ぬのは、わたしが一発で教えてあげる。

 クルマ事故なんかよりよっぽどわかりやすく、わたしがとっくり、教えてあげる殺してあげる

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