第9話わたし、魔法少女になれたんだから何度だってやるんです(数に限りはありません)
「最後に何が頼りになるか、誰を頼ればいいのかなんて、そんなの初めから決まってるわ」
母はわたしにそう言った。
「結局どこまで行っても、何処に行っても、行き着くところはひとつなの」
母はわたしにそう語る。
「何を失っても、誰をなくしても、一番大事なものだけはずっとあり続けることができるのよ」
母はわたしにそう告げる。
「それはね、自分自身。あなた自身よ、こいし。たとえあなたの持っているものが、あなたが手に入れたものが、全部その小さなてのひらからこぼれ落ちてしまっても、必ずその手に残っているわ。それを決してそれを手放さないで、しっかり握りしめなさい。ひとは死んだら死ぬだけだけど、ひとが本当に終わるのは
母はわたしにそう教えてくれた。
こんなわたしに、教えてくれた。
わたしはこんなに、悪い子なのに。
ごめんなさい、お母さん。
わたしはもう何度も教わったことをやぶりました。
自分のためにやぶりました。
それでも、どうしても言わせてください。
ありがとう、お母さん。
わたしに大切なことを教えてくれて。
言われたとおり忘れてないよ。教わったとおり覚えていたよ。
お母さんはわたし自身が希望になれって言ったけど。
わたしにとっての希望はずっと、お母さんだけだったよ。
それはいまでも変わらない。
いまだからこそ、それがわかる。
どこにいるのかわからないけど、きっと
だから、そこから見ててね、お母さん。
あなたの教えを、わたしが活かしてみせるから。
あなたの教えが、わたしを生かしくれるのを。
でも最後にひとつだけ言わせてください。
大切なことを教えてくれたのは、ホントにホントに感謝しています。
だけど、ちょっと長いと思います。
「いよっしゃぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!」
わたしは喉が裂けても構わないくらいの勢いで、お腹の底からしぼりだした自分史上最大音量の声で叫びをあげる。
こころのなかにこびりついた澱を、全て吐き出してしまうために。
そして
しぼみかけたこころのなかに、新たな覚悟と決意をもう一度刻むために。
「うわ、びっくりした。急にどうしたの。何かよくないものでも受信したの?」
「ちょっと気合いを入れ直しただけだよ。あとわたしにそんな機能はないからね」
全然落ち着いた声で、結構ひどいことを平然と言ってくる。
でもそんなことにはもう慣れっこだ。
それにこの緑の目の言葉でも何かの足しになるのなら、わたしはそれも食べてやる。
食べてちからに変えてやる。
しっかり足を踏みしめろ。膝を折るな、背筋を伸ばせ。下を見るな、後ろを向くな、見るべきところは前だけだ。
弱さを何とかするのは強さじゃない。
進み続けるその意志が、弱さを強さに変えるんだ。
だからわたしは進み続ける。
自分の選んだこの道を。自分で決めた生き方を。
背中を押してもらう必要なんてない。
誰かに動かしてもっちゃ意味がない。
初めの一歩を踏み出すのも、次の一歩で踏み込むのも、全部、自分なんだから。
そうとこころを定めたら、やることはこれしかない。
わたしは両足を肩幅に開いて両手で持ったステッキを、空に向かって突き立てる。
空の向こうの誰かに向かって、突き刺すように突きつける。
「今度は一体何を――」
わたしはその声を遮って、両手のステッキを力の限り、何もない足下へと振り下ろす。
誰も始まりの鐘を鳴らさないっていうのなら、そんな
その鐘の音は、隕石が落ちたようなとんでもない衝撃と星が割れたようなものすごい音をして、あたり一帯に響きわたった。
実際はそのなことあるわけないけど、それは今日一番の衝撃と音だったのは確実だった。
「ゲホ、ゲホ、で、これは一体なんのつもり?」
土煙を手で払いながら、わざとらしく耳をふさいで厭味ったらしく咳き込みながら緑の目が訊いてくる。
「何って、ゴングだよ。さっき自分で言ってたでしょ。さあ第2ラウンド、始めるよ」
わたしはすり鉢みたいに大きく深く抉れた地面の真ん中でにこやかに答える。
でも確かにちょっとやりすぎたかな。
バケモノたちも立っていた足場をなくして穴の底に転がり落ちてきて倒れてる。
それに、えーと、あの子はどこにある?
何にも考えずにやっちゃったからどこかに飛んでいったり、何かに埋まってたりしてるかも。
それはちょっと困るなあと、あれ以上キズがついて大丈夫かなと思って回りを見回し探してみる。
あ、あった、あった、見つかった。よかった、
さて、これで一安心。あとやることはひとつだけ。
わたしは次の鐘を鳴らすため、ステッキを肩に担ぎ直す。
母を焼いているときに、どこからか聞こえてきたあの鐘の音を。
死を告げる、死んだことを教えるための、冷たく寂しいあの音を。
鳴らすのはわたし、鳴くのはバケモノ。そして鐘は、
奇跡を胸に、
わたしは、わたしの持つ唯一の、だけど最強のカードをきるために、ズシンと力強く一歩踏み出しバケモノたちへと歩き出す。
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