第4話わたし、魔法少女になったらどうすればいいですか(まあホントはわかってますけど)

 あいつらを殺さなきゃ。だって友達を元に戻すにはあいつらを殺さなきゃいけないんだ。だから、そのためなら、

 それがいまのわたしにできることでやるべきことだと、その思いを胸の裡の心の底で確信した。

 その思いに突き動かされるように、その思いが急き立てるままに、わたしは前だけを見て走るペースを上げていく。

 その視線の先にいる、まだ友達だとわかる、まだ友達でいられるかもしれない、あの子に向かって一直線に駆けつける。

 わたしのを取り戻すために。

 そんな思いが心のなかを一色に染めていくなかで、頭のなかでは全然別の違うことを考えていた。

 せっかく魔法少女になったのに、こんな現実的な疑問に悩まされることになるなんて。

 それはどうやってあいつらと戦えばいいんだろうということ。

 そしてどうすればあいつらを殺すことができるんだろうということ。

 幸いなことに、わたしのいままでの人生で誰かと争ったり喧嘩したりといった経験はない。

 いたって平穏無事な人生を送ってこれた。

 殴り合いなんて以ての外だ。

 その経験のなさがこんなところで災いするとは人生ってわからない。

 人生は何事も経験だと、何でもわかった風に言っていた教師の言葉にも、経験していないひとにはわからないと、全てを知ったように言っていたクラスの女子たちの言葉でも、いまだけ確かに同意しよう。

 確かにそうだと、言ってもいい。

 決して認めは、しないけど。

 けどそれこそ魔法少女になったのだから、何だかこう魔法ぽくってでマジカルなちからを発揮して、メルヘンチックなおとぎ話のようにキレイこの場を解決したい。

 そのために肩に担ぐしか運び方がわからなかった、何をどうするにしても大きすぎるこのステッキがあるんだと思いたい。

 多分、おそらく、いやきっとこれが魔法のステッキだと信じたい。

 変身の呪文はだったけど、今度は何だかそれっぽいステキな呪文を唱えたら、何やらそれらしいキラキラした魔法が使えるようになるはずだ。

 まさかとは思うけど、の使い方をしたりはしないはずだ。いやきっと、おそらく、多分。

 そうじゃなきゃ

 そんなことを考えているうちに、あいつらと友達はもうすぐそこまで迫っていた。

 結構距離があったはずなのに、いつの間にかこんなところまできてしまっていた。

 運動は得意じゃないし、走るのだって好きじゃないのに、どうしてこんなに足が軽いんだろう。

 どうしてこんなに、

 まるでわたしのなかの思いがそのまま力になってるみたいに。

 まさにわたしのなかの何かがそうしろと言ってるみたいに。

 わたしの願いを叶えるために。わたしの望みを果たすために。

 そうこうしているうちにとうとうもうあと数歩で手が届くところまで、踏み込んでいた。

 そして魔法少女的に戦うのにはどうしたらいいか訊くために、期待を込めて後ろを振り向く。

 噂に聞くお化けか妖怪みたいにわたしの後ろをピッタリついてきて離れない、この緑の目に。

「ねえ――」

「とりあえず殴って」

 あっ、やっぱり。

 それでもわたしは言われた通りに、でも若干八つ当たりぎみに何かの見様見真似で肩に担いだままのステッキ鈍器を、あいつら目がけて思いっきり振り抜いて

 するとグチャチャチャっという確かな手応えが、左腕から始まり全身隈なく隅々までを快感となって貫いた。

 それと一緒にあの子にがっついてたあいつらがまとめて三匹くらい、気持ちいいほどバラバラに千切れて何かを色々撒き散らしながら分度器みたいなキレイな弧を描いて吹っ飛んでいった。

 わたしは自分でやったことなのに、その結果にびっくりして馬鹿みたいに口をポカンと開けて見入ってしまう。

「いやあ、いまのはなかなか爽快な一発だったね」

 そこにあの緑の目が割って入り、頼んでもいない説明でありがたくもわたしの意識を引き戻す。

 もうそうものだと受け入れた、といか諦めた。

「大抵のことは殴ればどうとでもなるからね。言うことを聞かせたければ札束で。黙らせたければ拳骨で。キミの場合はその魔法のステッキをすればどんな問題もサクッとキレイに解決さ」

 なんだかとてつもなく社会に反しているような、でも現実には即しているような、よくわからないことをこれまた平然と口にする。

 そこに自分が同列に並べられたのは意識的に無視をする。

 考えなくていいことは考えるなって母も言ってたし。

「なにはともあれおめでとう。これがキミの魔法少女としての初仕事だよ」

 こうしてわたしは魔法少女として初めの一歩を踏み出した。

 そうしてわたしは人間として最後の一線を踏み越えた。

 そんなわたしの初体験の思い出は、友達だったあの子の匂いと手に残る柔らかな感触。

 そして自分にできることをなした晴れ晴れとした心地よさと、自分のやるべきことをやった清々しい気持ちよさだった。

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