帰省
@hamapable
第1話
意外かもしれませんが、たいてい切符は先に買っておくんですよ。もう絶対に座りたいですからね、指定席を。年末やゴールデンウィークじゃなくても、自分が思いがけない日に人でいっぱいだったりしますからね。
品川までいくのはね、まあ大丈夫です。通勤でも降りる駅ですから。たいてい出発は昼食時にします。でね、新幹線待ってる間にパンを買いますね、ふたつ買います。おかず系とおやつ系っていうんですか、しょっぱいやつと甘いやつですね。おかずにするのはね、たまごなんか挟んであるやつが好きですね。チーズ! チーズもいいですねえ、パンはね、固いのも柔らかいのも好きですけどね。柔らかいほうが好きかな。だから甘いのはクリームパンなんかを買いますね。あとは缶コーヒーがあるといいんですが、まあ最近はペットボトルのを買います。ええ、やっぱり味が違うと思うんですよ缶とペットボトルじゃ。まあでもペットボトルは便利ですからねえ
新幹線に乗ったらもうすぐパンを食べます。しょっぱいやつをね、だからこのしょっぱいパンは食事ですね。新幹線が動いてないうちから食べますよ。だから僕は窓際に座りたいんです。食べてる間にどんどん人がきてね、通路側に座ってなんかしたら「すみませんちょっと私奥の席で…」なんてことになるでしょ。だからもう切符を買っちゃうんです。それでパンを食べますね。しょっぱいやつを食べて、あとに甘いのを食べて、だから甘いのはデザートですよ。
景色なんかはもうあんまり見ないですね。見ないなあ…だからもう…なにがあったかなんて覚えてないですねえ。運がよけりゃパンを食べきって寝れるんですがね、まあでもたいてい起きたばっかりで新幹線乗ってるからなあ。だからゲームなんかをして過ごしますね。窓側だと、電源もありますから、今時はね。
それでね、いつもヘッドホンか耳栓をします。人が話してるのがねえ、気になって。気に障るとかじゃなくてね、続きが気になって。でもたいてい人の話なんて最後まで聞いててもなんにもなりませんからね。最初から聞かないほうが良いってわけです。
駅に着くとねえ、まあたいていの家がそうでしょう。親が健康なら…だから過保護ってわけじゃあないと思うんですよ、その…まあ駅に着くとね、うちの母親が来るまでもうね、迎えに来ていますから。クルマに乗るわけです。
車の中じゃあもう母親がずっと話していますよ。それを聞きながら景色を見るわけです、まあ見るものなんてありゃしませんけど。駅前しばらくはね、百貨店があったりスポーツジムなんかあったりして賑わっていてね、カフェができてたりなんかしてね。ああおふくろあんなにおしゃれなカフェができたんだねえこんな田舎にも。あれえそうかね、あそこには前なにがあったんだっけね。さあなんだっけ…。たいていこういうことは思い出せないんですね。
駅からすこし離れればもうすっかり賑わいもなくなってね、誰かの家と閉まってる店と信号と横断歩道がずうっと続くんですよ。たまにコンビニと携帯電話ショップがあって、ああいうところの看板は東京じゃあなんとも思いませんが、うちみたいな田舎にあるとずうっと目立っていますよ。遠くからもう、あああそこにコンビニがあるなあ。通り過ぎるまでずうっとコンビニがあるって情報しかないわけで、他の情報はなんにも入ってこないです。まあ、なんにもないからですね。
駅から家はねえ、結構ありますけど、母の話は尽きることがないです。父親がどうしたとか近所の誰がどうしたとかね、一度も同じ話を聞いたことが無いからすごいですよ。ねえおふくろその話もう聞いたよってことが無い。まあ僕も真剣に聞いちゃあいないですが。僕が口を開くのなんか、あれおふくろここらへんにレストランがなかった?ほら和食のさ。とか、ねえおふくろここの信号ついにLEDになったんだねえいつから? なんてことばかりですよ。母はそのたびに、もうあんたは私の話なんて聞いてないんだからって怒るわけですけど。
僕の家はちょっと入り組んだところにあってですね、車庫入れなんかはいつもヒヤヒヤしますね。まあ親は慣れたものなんでしょうけど、免許をとってからは特にねえ、よくこんなところに車を入れるもんだと思いますね。
まあとにかく、実家まではこんな感じですよ。家をでて品川で新幹線乗って…実家までは3時間半か4時間くらいかなあ。何故かねえ、母がケーキを買ってあるんで帰ったらまずそれを食べますねえ。
ノスタルジーを感じるほどの田舎ってわけでもないんですよ、住宅街ですねえ。田んぼと山ばっかりなんてこともなくてね、観光地も近くにないし。つまらないところですよ。田舎ってのはきっとどこもそうでしょう。来ていただくってほどのこともないですが、来ていただけたらそりゃあ歓迎はしますけど、ねえ。うちの県ならもっと観光地のあるところにいらっしゃるが良いでしょう。
帰省 @hamapable
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