6話:5年ぶりの再会

 困惑、非常に困惑している。この女性は一体、誰? なぜ、俺の名前を知っている? 俺も知っている人だろうが、見当がつかない。


 そもそも、俺の知人がどうしてここに? という疑問も湧いてくる。


 が、どうにもこうにも、やっぱり腹が痛い。とりあえず、今の状況を何とかするのが先決だ。


「誰だか知りませんが、そいつら追い払ってください。俺はこの尋常じゃない痛みと戦いますから」


 そう言って、俺は再びうずくまるのだった。


 だって、いてぇし。



「まったく、百年経っても私は君を忘れることなかったのに。酷いなぁ」


 でも、ここは許してあげよう。だって、私は遥人のお姉さんで、幼馴染だからね。


 あ、もしかして、遥人がここにいるってことは、あのこも来てるのかな? そうだったら、会いたいなぁ。そしてまた、四人一緒に遊びたい。というか、遊ぶっ!


 だけど、とりあえずは、遥人の頼みごとを守らなくちゃ。


「――おい、お前! 痛い目見たくなかったら、柊を放せッ!」


「なんたって、俺たち――」


「――ああもうっ! うるさい! 分かってるよ、キミたちが誰かなんてのはっ! 異世界人――もとい、盤上の駒。――使い捨ての、ね」


 本当なら、ここで始末してもいい。その方が、私たちにとって最善。でも、遥人がいる手前、手荒なことはしたくない。


 まったく、私もまだまだ甘いということかな。きっと、彼なら間違いなく始末する。――現代の魔王にして、私の幼馴染なら。


「あぁ!? 使い捨てだぁ? 一度、痛い目見ねぇと分からねぇみてぇだなッ!」


 はぁ……痛い目見ないと分からないのは、キミの方だよ。召喚されて一日しか経ってないキミが、召喚されて百年経ってる私に、敵うはずないじゃない。


 ごめんね、遥人。追い払うには、少し痛めつけなくちゃダメみたい。だって、頭悪いもの。


 でも、大丈夫。すぐに片づけて、遥人の介抱してあげるから――……。



「――終わったよ」


 頭上から、声が聞こえてくる。どうやら、柊たちを追い出せたみたいだ。


「ありがとうございます。俺は絶賛、痛みに耐えてる最中ですが……」


「うん、知ってるよ。遥人はいつも我慢してたもんね。階段から転げ落ちたときも、ずっこけて膝を擦りむいたときも――いつも、泣かずに我慢してた」


 具体的なエピソード。やっぱり、この女性は俺のことを知っている。しかも、俺の性格を理解しているということは、かなり近しい間柄だったということ。


 だがしかし、まったく思い出せない。俺の知り合いに、こんなに可愛い人いたっけ?


 そんな俺に、女性はむぅと頬を膨らませる。


 あら、可愛い。


「もうっ! 酷いっ! 私はすぐに遥人だって分かったのに!」


「いやぁ、すみません。俺、記憶力には自信がなくて……」


「まったく……私だよ、私! は・る・の! 笹倉晴乃っ!」


 ……? ささくら、はるの? ササクラハルノ……? 


 いや、まさか。この女性が、笹倉晴乃だってのか? 嘘だろ? 五年前に失踪して以来、行方不明になっていた……?


 おいおいおいおい、ここで再会とか! どんなラノベだよっ!


 そう、喜びを露わにしようとして、


「ハルト様ぁ~。ごめんなさいぃ~、怖くて固まってましたぁ~~~!」


 のしかかるようにして謝ってくるロリババアのせいで、俺は表情を歪ませるのだった。


「いってぇッッッ! 痛い痛い痛い痛い、どけッッ! どいてッ! 痛くて、俺泣いちゃうからッ!」


 大して体重はかかっていないはずなのに、鈍い痛みが腹部を中心に広がる。

 それに従い、呻き声が漏れた。俺一人だったら、泣き叫ぶぐらいの激痛だからかなり耐えてる方だ。


 だが、流石に、これ以上は無理!


「『冒険者の手当てしてろッ!』」


 俺はオトモと化しているミーニャに命令した。すると、ミーニャはすぐさまに退き、倒れている冒険者たちの方に歩いていく。


 助かった……。あれ以上、体重をかけられていたら、流石にブチ切れていたところだ。


 しかし、これのせいであらぬ誤解を招いてしまったようだ。


「も、もしかして、遥人っ……。あのこを……」


「ち、違うからぁ! やめてっ? そんな冷たい目で見ないでっ」


「ふふっ。知ってる。からかっただけだよ。あー、面白い。やっぱり遥人をからかうのは楽しいなぁ」


 くっ、相変わらず人で遊ぶのが好きらしい。だけれど、悪い気はしない。目の前にいるのが、本物の笹倉晴乃――晴乃ねぇであることを実感させてくれるからだ。


 それと、単純に再会できたことが嬉しい。五年……五年もの間、一度も会えず、今後一生会えないと思っていたから……。


 あいつも、この場にいたら、喜ぶのだろうか。この五年の間で性格がガラッと変わって、俺ともまったく交流を持たなくなってしまったあいつでも……。


「ねぇ、遥人! あのこ……美玖ちゃんは元気にしてる? もしかして、こっちに来てたりする……?」


 晴乃ねぇはキラキラした目をしながら聞いてくる。この様子だと、会えるのを楽しみにしているのだろう。


「どうなの……?」


 ……ここは、嘘をつかずに、事実を伝えておいた方がいいよな。


「美玖もこの世界に来てるよ」


「そうなのっ!?」


「うん、ただ……」


「ただ、どうしたの?」


「晴乃ねぇが知ってる美玖はもう……いないんだ。あの純真無垢だった彼女は、あいつに……風磨に……っ、壊された」


 そう言った途端、晴乃ねぇが纏う雰囲気が張り詰めたものに変わるのを、俺は見逃さなかった。

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異世界イージーモード 〜今すぐ最強になれますが、何か?〜 霜月琥珀 @shimotuki_19nv

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