今日こそ

１話完結

　今日こそ言おう。今日こそ……

「……先生っ！」

　カッカッカッ。

「ここが三角形になるから内角の和は一八〇度になって……」

……言いたい。すごく言いたい。授業を聞かなくちゃいけないんだけど、言いたい。先生、イケメンすぎて顔直視できないけど言いたい。

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

「ここまでか。じゃあ次回は多角形の角度を見ていくぞ。終わりっ」

「気をつけ、礼」

「ありがとうございました」

よし言おう。勇気を出すんだ。

「先生！」

「おう、どうした」

「っ……ここってどうやって解くんですか」

「あーここな。簡単だぞ。ここは……」

あー……言えなかったー。無理だー。言えない……。

今日も先生の授業。

「ここの説明できるか。じゃあ当ててくぞ。木下！　目を逸らしたな。じゃあ木下！」

「はい！」

威勢良く返事はしたものの……めっちゃ言いたいと思いすぎてやばい。

「あ……六つの三角形に分けられるので、一八〇かける六で一〇八〇です……」

「合ってるよ。なんで目を逸らしたんだよ」

教室で笑いが起きる。いや、だって先生を直視できないんだもん。目を逸らしたんじゃなくて、目を逸らさないと無理なんだもん。

その後は当てられることもなく、授業は終わった。よし言うよ。

今日こそ言おう。今日こそ……。

「……先生っ！」

「ん？　どうした？　今日もわかんないところあるのか？」

「いや……先生っ。いつも……ずっと言いたかったんですけど……

右目は二重で左目は一重です……」

私は一気に言った。ふーー。言えたー。やっと言えたー。

「えっ？　一重？　嘘だろ？　毎朝頑張って作ってきてるのに？　左目だけ？　いつもか？」

「はい……いつもです」

「それ気づいてたんだったら言ってくれよぉー。あー最悪ー」

と言いながら先生は髪をクシャクシャっとした。イケメンか。目を除いては。

先生、目以外は完璧なのにな……。