第12話 短編で磨く文章力
年が明けて2020年。
冬休み中に文芸部誌用の原稿を仕上げた私は、兼部する軽音部のLIVEに向けてバンド練習に励んでいました。
それが、突然の緊急事態宣言の発出。そしていきなりの全国一斉休業。
学年末考査もLIVEも中止になり、部誌の発行も無期延期です。LIVEと部誌でひと区切りつけたら大学受験に専念しようと思っていた私の胸に、ぽっかりと、大きな穴が開いてしまいました。
そんな中でなんの予告も無く始まったのがKAC2020。KACとは、年に1度のカクヨム生誕祭です。特にKAC4は4年に1度の本当の創設記念日(2月29日)とあって、盛に盛り上がりました。
それまで私はカクヨムの活動にそれ程積極的ではなく、カクヨムコンの期間中も高みの見物を決めこんでいました。それなのにKACのお祭りに参加したくなったのは、やはりコロナの閉塞感を打開したい思いがあったからかもしれません。
KAC2020には様々なコンテンツがありましたが、私が参加したのは、数日おきに発表されるお題に沿って4000文字以下の短編を仕上げるというコンテストでした。
狙うは大賞! ……ではなく皆勤賞。
文字数に制限がある短編を書くのは初めての経験でしたが、どうにかこうにか全てのお題をこなすことが出来ました。
この時、「拡散する種」と言うテーマに合わせて書いたのが、カクヨム甲子園2020に出品した『たんぽぽ娘』の原形です。
この作品を書いた時のことを、私はぼんやりとしか思い出せません。
ただ、「拡散する種」という言葉を目にした時、ふわっとたんぽぽの綿毛が風にのるラストシーンと、それを目で追う女の人の姿が、脳内のスクリーンに映し出された気がしました。
私はその映像を追いかけるように夢中でPCのキーボードを叩き、突然降ってきた物語を、どうにかして書き留めました。我に返った時には、一編の物語がデスクトップの上にあり、不思議な気持ちでそれを眺めたのを覚えています。
とは言うものの、いきなり完成品が出来たわけではありません。
前述の通り、私は字数制限のある小説を書くのはKACが初めてでした。私の高校の文芸部誌には頁制限すらなく、短かろうが長かろうが構わないというのが伝統的なルールです。ですから『檸檬(原題:lemon)』などは3万字を超えてしまって、製本したら部誌の半分以上を私の作品が占めてしまうという「珍事」が起きたくらいです。
そんなわけで、KAC2020に参加してはみたものの、物語を制限字数に収められず、書き上げてみれば、どれもこれも5000文字オーバーと言う状況でした。これではレギュレーション違反ですから、皆勤賞にはなりません。
そこで私は、1作書き上げるごとに、不要な語や場面を削って、文字数を制限内に整えなければなりませんでした。
かなり苦しい作業でしたが、お陰で文章力を上げるには、良い鍛錬になりました。
今思えば、書き上げた後に心を一旦サラにして、読者目線で自分の作品を眺めてみたのが良かったのだと思います。不思議なもので、読者の立場に立って自分の作品を読み返すと、ストーリー展開上不必要なエピソードや、作者の自己満足でしかない裏設定や、作者にしか意味が伝わらない修辞句など、様々な「文章の灰汁」を発見出来るものなのです。
他にも誤字脱字衍字は勿論、意味が曖昧なまま使っている語句の確認や、言い回しや語尾の癖、漢字の揺れや人称のズレなどの発見などなど。
文字数を削るための見直しは、思わぬ効果を作品にもたらしてくれました。
作品を読んでくださった方の中に、稀に私の文章力を褒めてくださることがありますが、実は私は文才などはありません。初稿などはそれはもう稚拙です。でも、前述のような「文字数を削って文章全体をスリムにする」という方法で自作を見直して、不要な箇所を削り、文のリズムを整えるうちに、ある程度までは読む人の鑑賞に耐え得る文章に仕上がるものなのです。
ここを覗いているあなたも、文章を褒められる作家さんとご自身の作品を引き比べて「一体何が違うと言うんだろう?」と不審に思うことがあるかもしれません。
その時は、是非一度この方法を試してみてください。
まずは、心の赴くまま、制限文字数を超えて書いてみる。
そうしたら次は読者の目線で、違和感の原因を探し、無駄な文章を削ってみる。
たったそれだけの作業で、冗長でわかりにくい文章がすっきりと生まれ変わることでしょう。
頑張ってください。
応援しています。
次の更新(2021/05/05/10:03)では、『筆致企画』についてお話する予定です。
(2021/05/03/20:53 記)
(2021/05/08/20:42 改稿)
(2022/08/31/09:52 修正)
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