第13話 筆致企画という他流試合

 KAC2020に参加し、短編に挑戦していた頃、私の頭にあったのは「今年もカクヨム甲子園に挑戦するかどうか?」ということでした。


 2019年は読売新聞社賞だったので、もう1つ上の大賞に挑戦してみたいという気持ちは確かにある。けれども確実に受賞出来る自信はおろか、中間選考を突破出来る自信すらない。もしも2020年にも応募して、最終審査にも残れなかったら、2019年の結果は偶然だった……もしくは1年経ってもなんにも成長出来ていなかった……ということになるかもしれない。そんな目で見られるのは避けたい。


 このエッセイを読んでいるあなたは、私が人目を気にするケツの穴の小さい人間だということは、とっくにお見通しかと思います。性根というものは治りませんから、私は最初の応募から1年経っても相変わらず迷いの中にいました。


 そんな時に出会ったのが、「筆致企画」という自主企画です。

 自主企画とはカクヨムサイトのコンテンツの1つで、ユーザーが自主的に主催するイベントです。自主企画には「読み合い」「読みます」「本棚」など、既存の作品を登録するタイプの企画の他に、「筆致」「同題異話」などのような、参加者が共通のルールに則って作品を執筆しては、お互いに読み合うタイプの企画もあるのです。


 私が参加したのは、ゆあんさん(https://kakuyomu.jp/users/ewan)という方が企画している「筆致は物語を超えるか」というシリーズの『葉桜の君に』という回でした。

 この筆致企画のルールは、ひと言で言えばゆあんさんが用意してくださったプロットに従って小説を書き、他の参加者の方々とお互いの小説を読み合って批評し合うというものです。批評の趣旨は主に「筆致」について。物語の展開よりも、文章に焦点を当てて鑑賞するのがポイントです。

 私はこの企画に参加して、主催者のゆあんさんは勿論、オレンジ11さん、野々ちえさん、ふづき詩織さん、蜜柑桜さんなど、沢山の素晴らしい作家の方々と出会い、多くのことを学ばせて頂きました。


 その時書き上げた『葉桜の君に』という短編は、カクヨム夏物語2020というコンテストで中間選考を突破しました。大人の方々に交じって激戦を通過したという事実は、私のしぼみがちな自信を温めて、もう一度膨らませてくれるに充分でした。


 きっとネットの無い時代に比べれば、今は創作という内向的な趣味でも、SNSなどで同好の士を募り易く、孤独にさいなまれることは少なくなったのだろうと思います。でも、小説を書くという目に見えにくいスキルは、誰かに教えを乞うことが難しく、同世代の仲間内で競い合ってみてもドングリの背比べで得るものは多くありません。


 けれどもこうした筆致企画で出会う大人の作家さんは、全員がお師匠さんです。嘗て私達と同じように夢見る少年/少女期を過ごした先輩作家さん達は、広い心で私のような生意気で未熟な学生作家を受け入れてくださり、沢山誉めて伸ばしてくださいました。


 カクヨム甲子園が始まる前に、自分の文章/創作スキルがどの程度のものか知りたいとあなたが思う時は、このような筆致企画に参加してみることをお勧めします。SNSで同世代の作家とわいわい話すのも楽しいと思いますが、ややもすれば傷を舐め合うだけで終わってしまう危険があります。そんな時、筆致企画などの他流試合は、自分を鍛える場としては大変有効です。

 私も大学生活に慣れたら、また筆致企画に参加してみたいと思っています。


 いつかどこかの企画であなたにお会い出来るのを、楽しみにしています。




 次の更新(2021/05/05/14:00)では、集英社主催、第一回高校生のための小説甲子園に『アイの寓話』を応募した際に頂いた、評価シートについてお話したいと思います。




(2021/05/03/22:48 記)

(2021/05/08/22:09 改稿)

(2022/08/31/09:58 修正)




 






 

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