第10話 自分に無いもの
運営様から授賞についてご連絡を頂いた私は、他の中間突破作品を読んでレビューコメントを書きながら、大賞や特別賞の行方を占っていました。
キンコーズ・ツクル賞は、すぐにわかりました。
キンコーズは受賞要件として「『ツクル』というお題に沿うこと」と「タグにキンコーズ・ツクル賞と入れる」という制約があります。このレギュレーションをクリアしている作品は、両部門とも2~3作程しかなく、その中では受賞した2作品が、他の応募作品よりも頭1つ抜きん出ているのは明らかでした。
ですが、大賞や読売新聞社賞の予想は難しかったです。
因みに私は次のように予想しました。
【ショートストーリー部門】
大 賞:『雨音を切り刻む』(雨籠もりさん)
読売新聞社賞:『うつくしいひと』(ななこさん)
どちらも甲乙つけがたい程素晴らしい作品だと思いましたが、例年、読売新聞社賞はエッジの効いた作品が受賞する傾向があったので『うつくしいひと』がどちらかと言うと読売タイプかな? と。
実際はご存知の通り、『うつくしいひと』が大賞を、そして『雨音を切り刻む』は奨励賞を受賞しました。
カクヨム甲子園へのエントリーを目指す方なら、誰でも歴代の大賞受賞作品には目を通してらっしゃると思います。ですが『雨音~』は奨励賞受賞作のリストでは下の方に位置しているので、もしかしたら目に留まりにくいかもしれません。
是非この機会にご一読を。
読者を意識した立体的な筆致は圧巻のひと言です。
では次に、私が読売新聞社賞を受賞したロングストーリー部門を見てみましょう。
私の予想はこうです。
【ロングストーリー部門】
大 賞:『疾風』(ネギま馬さん)
or
『しゅうまつ、きみと。』(新谷風さん)
『疾風』は、体育の授業で持久走を走る高校生の、心模様を描いた作品です。登場人物が地面を蹴って、一歩、また一歩と整っていく登場人物の心の動きを追いながら、読み手自身の気持ちも癒されていくようで、読後の清涼感が素晴らしいと思いました。
そして『しゅうまつ、きみと。』は、終末ものにありがちな虚無感が殆ど無く、最後まで作者の目線がひとに優しいことに胸を打たれる感動作です。例え世界が終わろうとも、人生の最期の2分を愛する人と分かち合えるなら、幸せな人生だったと言っても良いと、そんな風に思うことが出来ました。
『疾風』は惜しくも受賞を逃しましたが、『しゅうまつ〜』は奨励賞を受賞。
両作とも、あなたにも是非、味わって頂きたい名作です。
ところで、ロングストーリー部門の大賞受賞作品の題名が上がっていませんね。
うっかり読み飛ばしてしまった?
いいえそうではありません。
私は、まさかあの作品が大賞を受賞するとは夢だに思わなかったのです。
いえ、思いたくなかったのです。
私は認めたくなかったんです、神無月さんを。
だって、あまりにも『青春病』が凄すぎて。
最初の1行目で判る文章力。
圧倒的な描写力と表現力。
あまりにも自分とはレベルが違い過ぎて、驚異……いえ、恐怖でした。
いやだいやだ! こんな凄い人が高校生だなんて認めない。
心が悲鳴を上げました。
思わず目を逸らしてしまいました。
そして重箱の隅を突いて欠点を数え始めました。
情けないことに。
例えば、「こんな都合よく有名人と知り合えるわけないじゃん(知り合うのが物語なんですよ)」とか。「数時間一緒に過ごしただけで親友になれたら世話ないよ(なれるのが物語です)」とか。「主人公の夢を否定するような子が親友ポジションってどうなの?(ラストを読め)」とかっていう感じです。
相当悔しかったんでしょうね。
私は『青春病』を心の中から締め出して、小さなこどものように耳を塞いでいたのです。
実際はあなたもご存知の通り、圧倒的高評価で『青春病』が2019年のカクヨム甲子園を制しました。
ここを読んでいるあなたも、これから先もずっと創作活動を続けていたら、「なんでこの作品の方が私のよりも評価が上なの!?」なんて、不満に思うことがあるかもしれません。
でも、「負けに不思議の負け無し」とも言います。
負けてしまった時は、負けた理由がちゃんとあります。
これまでのカクヨム甲子園でも、自分の作品がどうして落選しなきゃならないのか理解できないと零している人が大勢いました。でも、岡目八目。彼らが敗退した理由は、傍目に明らかだと思うことも多々ありました。
現実は時に残酷ですが、受け止めなければならないと思います。
神無月さんにあって私に無いもの。
誰かにあってあなたに無いもの。
その何かは、あなたが目を背けてきた「こんなもの」の中に、隠れているのかもしれません。
次回の更新(2021/05/04/10:01)では、「音楽の力の落とし穴」についてお話したいと思います。
(2021/05/02/20:49 記)
(2021/05/08/16:58 改稿)
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