第3話 未完の処女作

 『残夏』は、高1の6月、文芸部の部誌用に私が生まれて初めて着手した小説です。「着手」だなんて言い回しを使うのは直後に完成を諦めてしまったからで、執筆を再開したのは中断から実に1年を経過した高2の夏でした。


 私は一体『残夏』の何にそんなに手こずったのでしょう?


 躓きの理由は3点ありました。

 1つは、つまらない情景描写をダラダラと続けてしまったことです。

 この時の『残夏』は、主人公が事故で亡くなった幼馴染(後に唯のクラスメイトに変更)の告別式に向かうシーンから始まるのですが、私はその場面をリアルに描写しようとして、やれアスファルトが光っただの、やれ頸に一筋の汗が流れただの、無駄に言葉を重ね過ぎていたのです。


 2つ目は、執筆に必要な知識と経験が不充分だったことです。

 前述の通り、主人公は告別式に参列します。

 ところが当時の(恐らくは今も)私は告別式の経験に乏しく、充分な語彙も持ち合わせていませんでした。仕方なくwebで知識を検索しながら書き進めましたが、付け焼き刃な知識では臨場感が生まれない上に、無駄に時間が掛かり過ぎました。


 そして3点目。

 主人公に愛着が持てませんでした。


 そんなわけで、この時の『残夏』は、書いても書いても――4000文字以上書いても――主人公は告別式の会場で、所在なさげにパイプ椅子に座り込んだままなのです。それではいつまで経ってもドラマが生まれるわけがありません。


 気が付けば中間考査直後の、長閑のんびりとした日々は過ぎ、期末考査間近のヒリヒリとした圧迫感に追われる季節になっていました。

 このままではまずい。

 これでは結末に辿り着くまでに、10万文字を超えてしまう! 何より部誌発行の締め切りに間に合わない!


 そんなわけで期末考査を終えて再びPCに向かった私は、潔く『残夏』を手放して、新たな物語を書き始めることにしたのでした。


 新しい小説のタイトルは『AI』。

 現代社会の授業中、SDGs(エズ・ディー・ジーズ)について学んでいる時に、不意に降りて来てくれたSF風のお話です。



 次回の更新(2021/04/30/19:04)では、この『AI』の執筆時の思い出についてお話ししたいと思います。



(2021/04/28/14:35 記)

(2021/05/08/03:13 改稿)

(2021/07/14/12:24 改稿)

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